真空管 6R-DHV1 6R-HV1 6R-DHV2


 写真左から 6R-DHV1(東芝)、6R-HV1(東芝)、6R-DHV2(NEC)
当時の定価はそれぞれ670円、600円、990円。


 1954年の「ラジオたんぱ」(現「日経ラジオ社」)開局以降、 中波と短波の受信できる2バンド・ラジオが 流行の兆しを見せてきました。中波放送だけでしたらこれまでの5球スーパーでも 十分な性能を持っていましたが、海外の短波放送を聞こうとすれば感度・分離の 点からも高周波増幅付スーパーが欲しくなります。

 ところで、現在では当たり前のように課税されている「消費税」ですが、 「消費税」の施行される前は 商品ごとに課税割合の異なる「物品税」をメーカーが支払っていました。 5球スーパーでは 5% であった「物品税」が6球スーパーとなると 20% にもなり、 これは6球スーパーの値段が不当に高くなることを意味しました。

 そこで考えられたのが、5球で高周波増幅付スーパーを成立させるということでした。 当時値段の高かったシリコン・ダイオードやセレン整流器を整流管の代わりに使うことはできず、 6BM8ECL82)(1956年)などの複合管はまだわが国にはなく、 出力管には評判のいい 6V6-GT(1939年)を使いたい、といった希望もありました。 そこで中間周波増幅管の 6BD6(1946年)と検波・増幅管の 6AV6(1947年)を1本の新しい 複合管にまとめることで解決を図ろうと、わが国の真空管メーカーが協力して開発を始めました。 ちなみに、「マジック・アイは真空管ではない」というラジオのセットメーカーの 苦しい言い分が通って、マジック・アイは5球の中には入っていません。

 6BD66AV6 を一つにしたような複合管で無難にまとめようと始まった 開発ですが、もっと gm の高い 6BA6(1945年)と 6AV6 を一つにしたような複合管に したいという東芝、日立、テンと当初の方針通りとするNECとの開発協力は分裂し、 2チームがそれぞれの球を製造することになってしまいました。

 1957年ころに gm の高い方を開発していた東芝から2極3極5極管 6R-DHV1 が登場しました。 1958年半ばには日立も製造を始めました(雑誌「無線と実験」1958年7月号に紹介記事が掲載されています)。 2極部は1組だけで高増幅率の3極部とカソードを共用しています。 9ピン mT 管に収めるために、5極部のカソードとヒーターの片側が4番ピンを共用しているのが特徴です。 モジュレーション・ハムを防止するため、必ずシールドケースを用います。 東芝 めじろ ES東芝 めじろ FS東芝 めじろ GSテン 6HA-850シャープ アールドム 7H-130日立 S-500ナナオラ 7M-56日本コロムビア 1405 といった 2バンド・ラジオに実際に使用されました。

 しかし、あろうことか テン 6HA-850日立 S-500 では2極部は使用されず、 検波にはまだ高価だったゲルマニウム・ダイオードが使われていました。 実はネガティブ・フィードバックをかける必要から3極部にカソード・バイアスを採用したため、 もしカソードが共通の2極部で検波した場合には無信号時に AVC 電圧が正電圧となってしまいます。 これでは自己バイアスを採用できない5極部は定格を超えてしまいます。

 6R-DHV1 の登場とほぼ同時期に、2極部を取り除き、5極部のカソードとヒーターのピンを独立させた 6R-HV1 が東芝から発売されています (1957年6月発行の書籍「東芝レビュー」に 6R-HV16R-DHV1 が掲載されています)。 6R-HV1 は検波にゲルマニウム・ダイオードを使うことが前提となりますが、 日本コロムビア VA-71 などに使用されました。

 雑誌「ラジオの製作」1957年10月号に、 6R-DHV1 を使った4球スーパーの製作記事が掲載されています。


写真左から1番目マツダ」のロゴは1959年以前の製品。
写真左から2番目東芝」のロゴは1960年以降の製品。 球の背面に「マツダ」のロゴがあります。
写真左から3番目テン」の製品。
写真右端日立」の製品。 当時の定価は 600円。

 1957年に 6R-DHV1 にやや遅れて、NEC の2極3極5極管 6R-DHV2 が発売されました。 こちらも2極部は1組だけですが、 5極部とカソードを共用していますので3極部のカソードにネガティブ・フィード・バックをかけることができます。 しかし結局9ピン mT 管ではピンの数が足りず、1X2-B(1955年)のようにトップにキャップを 持つ極めて特殊な mT 管になってしまいました。 三洋電機 SS920 2バンドラジオにも使われていました。

 雑誌「ラジオ技術」1957年5月号に、 6R-DHV2 を使った5球スーパーの製作記事が掲載されています。


 余談ですが・・・

 第二次世界大戦に使用された無線機 BC-474 はRF用5極管 VT-1461N5GT)(1938年)、 コンバータ管 VT-1471A7GT)(1938年)、2極3極5極管の VT-1481D8GT)(1939年) と VT-1493A8GT)(1939年)の、わずか4球でBFO付高1中1受信機を構成していました。

 こうしてみると複合管は魅力的に見えるのですが、mT管なら6球ポータブルが組める大きさのシャシを使って GT管ポータブルを組もうとすると3本しか入らないのです。

 自動車用真空管にも 6R-DHV1 によく似た2極3極5極管 12FR8(1959年ころ)があります。 この球も5極管のカソードとヒーターの片側が5番ピンを共用していますが、こちらは ヒーター電源が直流であるためハムの問題がありません。
左から 3A8GT1D8GT12FR8

(2018年1月25日一部加筆・訂正)
(2013年8月10日加筆・写真差し替え)
(2009年9月 2日一部訂正)
(2005年5月11日加筆)
(2003年2月 2日初稿)
6R-DHV1を使ったラジオを作ってみました。
6R-DHV2を使ったラジオを作ってみました。
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