50MHz AM トランシーバー
(自作)


Photo: Homebrew 50MHz AM Walkie-talkie.

 ずっと前から、電池管を使ったトランシーバを作ってみたいと思っていました。 構想17年。製作期間3ヶ月。 果たして実用機となるのか、それとも単なるノスタルジアに終わるのか。


8球 50MHz AM トランシーバ
 最小構成、できれば 3A5 単球トランシーバとしたかったのですが、 自作アマチュア無線機を審査・保証する TSS(株)に問い合わせてみたところ、現在アマチュア無線機としては 「送信機は2ステージ以上必要、複合管の単球は認められない」 とのことです。

 要するに、2球2ステージ以上の送信機を作りなさいということです。 悩んだ末に設計したのが、左のブロック図のような8球トランシーバです。 半導体は一切使わず、mT型電池管とその技術でまとめました。 真空管の数は多いものの、省電力設計になっています。

2球2ステージ送信機
 過去に市販無線機として(株)江角電波研究所から「OX−2型50MHz発振部」 が発売されました。 これは 3A5 単球ながら、水晶による50MHzの3倍オーバートーン発振、 終段プレート変調の2ステージ構成の合理的なユニットでした。 この回路は「実用真空管ハンドブック」 (誠文堂新光社)p.29にも紹介されています。

 今回はこの回路を手本に、左図のような発振管 DC90、出力管 3V4 の 2球に分けた2ステージ送信機としました。

(Photo: Transmitter with 3V4 and DC90)
 発振回路はピアスGP回路にフィードバックを加えた VHFではおなじみのオーバートーン発振回路です。 3A5DC90 では30V程度の低いB電圧でもよく発振するのですが、 1L4などの3極管接続では発振が起きづらいようです。 今回、発振管とした DC90 は、ヨーロッパのFMポータブル用自励コンバータ管で フィラメントは1.4V、50mAです。

 出力管には変調管と同じ 3V4 を使い、 1AH53V4 の受信機の音声増幅回路を、 送信時には変調器として兼用します。 深い変調はかかりませんが、 変調トランスが不要なハイシング変調(チョーク結合変調)としました。 3V4 の25mA管 3C4 では、出力が若干低くなるようです。

6球ダブル・スーパー受信機
 受信機として伝説の超再生検波も試作しました。 簡単な回路の割りに感度はよいのですが、 実用通信機としては感度、了解度ともに不十分だと思います。 そこで作り慣れたポータブル・ラジオにクリスタル・コンバータを プラスしたダブル・スーパーとすることにしました。

 mT管に適当なものが無いことから、思い切って高周波増幅を省略しました。 アンテナからの信号は同調コイルを経由して DC90単球クリスタル・コンバータに入ります。 これは、かの JA1FG 梶井さんがその昔雑誌に紹介した回路を、 今回電池管用にアレンジしてみたものです。 DC90 のピアスGK回路によって56MHzをオーバートーン発振し、 同時にグリッドに入ってきた50.4-50.8MHzの信号との差、5.6-5.2MHzを取り出します。

 真空管が1本で済み、クリスタル・コンバータで難しいとされる 局部発振の注入電圧の調整がオートマチックという、2大メリットがあります。 欠点は、アンテナから局発電波の発射、局発を受信周波数より高くしないと 発振しないことです。 テストでは 1L4 の3極管接続も使えました。

(Photo: Receiver and Modulator)
 次段からはポータブル・ラジオそのもので、 7極管 1AB6 自励コンバータで 455kHz に変換し、 1AJ4 による中間周波増幅2段の後、 1AH5 で検波・増幅、3V4 で電力増幅をしてスピーカーを鳴らします。 付属回路としてSメータを付けました。 IFTは5球スーパー用を3本使いました。

 変調器の 3V4 へのバイアス電圧は、 送信時と受信時で変えています。 受信時には多少出力を抑えて、消費電流を少なくしています。

トランシーバ内部
Photo: Two-tube two-stage Transmitter (puts out about a quarter watt), and
Six-tube double conversion superheterodyne Receiver and Modulator.

 送信機の終段管 3V4 はC級動作で、測定したところ グリッド電流0.11mA、プレート・スクリーン電圧85V、 プレート・スクリーン電流7.4mA以上でした。 真空管送信機独特のプレート電流のディップや グリッド電流の変化などは、規模が小さくても同じです。 実際には乾電池の電圧とともに電流も大きく変化し、 終段管 3V4 の個体差が大きく影響します。 B電圧が 30V 程度に下がるまで動作しますので、内蔵乾電池で丸一日働きます。

8球 50MHzAMトランシーバ定格表
型式送信機 水晶制御2ステージ、終段ハイシング変調(AM)
受信機 ダブルスーパー(第1局部発振固定)
送信・受信周波数送信50.620MHz(固定)
受信50.405-50.835MHz(連続可変)
中間周波数第1中間周波数5.595-5.165MHz  第2中間周波数455kHz
使用真空管送信機 DC90(テレフンケン)、 3V4(フィリップス)
受信機 DC90(テレフンケン)、1AB6(松下)、 1AJ4(松下)、1AJ4(松下)
音声増幅/変調器 1AH5(松下)、3V4(東芝)
感度
電気的出力空中線出力 0.25W (規定値)
音声出力  0.25W(推定)
電源乾電池 A 1.5V(単1型アルカリ乾電池 x2)
B 90V(006P型マンガン乾電池 x10)
消費電力送信時 A 1.5V-300mA/400mA(Slow/Quick) B 90V-15.6mA
受信時 A 1.5V-250mA/400mA(Slow/Quick) B 90V-12.4mA
キャリブレーション時 A 1.5V-400mA B 90V-12.1mA
スピーカー4.5cm ダイナミック 8オーム、0.5W
形状本体 330 x 215 x 70mm (ケース 300 x 180 x 70mm)、  アンテナ 1,470mm
重量1.68kg (電池なし、マイク含む)、 2.25kg (電池、マイク含む)
製作年月2006年4月


8球 50MHzAMトランシーバの回路図


*トランシーバの機能と操作方法

Mic マイク端子です。 感度のいいラペル型クリスタルマイクを使用します。
HP ヘッドフォン端子です。 ステレオ・ヘッドフォンが使えます。 騒音の多い屋外では必需品です。
スピーカー 前面に付けるために小型のものを選びました。

Vol/Power OFF/ON 左にいっぱいに回すと電源が切れます。 右に回すと電源が入って、受信音量が大きくなります。 マイク音量とは無関係です。
S-meter 逆ぶれ式ですがメーターの天地を入れ替えてありますので針は普通に振れます。 信号強度を読むほか、キャリブレーションには絶対必要です。 電池電圧の低下とともに0点が右にずれていくため、電池の消耗の目安にもなります。

   受信周波数/ダイヤル目盛
周波数
(MHz)
ダイヤル
(100分角)
周波数
(MHz)
ダイヤル
(100分角)
50.405
100
50.640
48
50.420
91
50.660
44
50.440
87
50.680
39
50.460
83
50.700
34
50.480
79
50.720
29
50.500
76
50.740
25
50.520
72
50.760
20
50.540
68
50.780
16
50.560
64
50.800
11
50.580
60
50.820
7
50.600
56
50.835
0
送信
50.620
52
-
-
Cal/Slow/Quick
*Cal:キャリブレーション。受信時に送信部の発振管を動作させ、受信周波数を 送信周波数に較正(こうせい)します。
*Slow:のんびり交信するときに使います。送信時には受信機のDC901AJ4x2のフィラメントを消灯、受信時には送信機全体のフィラメントを消灯、 A電池の消耗を少なくします。 なお、受信機の 1AB61AH53V4 は常時稼動しています。
*Quick:トランシーバ全体のフィラメントを常に点灯、 送信受信切替時のフィラメントのウォームアップ時間による 1秒近い反応の遅れをなくします。

Tuning 50.405MHz-50.835MHzの430kHzをバーニア・ダイヤルで 100度(100分角)に展開しますから、AMラジオより同調は容易です。 数か所スプリアスがありますが、50.620MHz 付近はまったく問題なく 安定した受信が可能です。
R・T R(受信)とT(送信)の切替スイッチです。

*カバン用肩掛けベルトが使えるように、両端にU字ボルトが付いています。 アンテナは180度可動で、本体を立てても寝かしても使用できます。


免許状は10W
 1989年自作無線機で電波を出すために、アマチュア無線の免許を取りました。 2006年4月14日 50MHzAMトランシーバ完成。 TSS(株)の保証を受け、 5月11日付で晴れて第1送信機だけの免許をもらいました。 申請は0.25Wですが免許状は10Wです。

トランシーバの性能は???
 近所を歩きながら電波を出したら、家の受信機から私の声が聞こえたそうですから、 100mくらいはとどくようです。(笑)

 予想はしていたのですが、 静岡市の50MHz帯は閑古鳥が鳴いています。
 静岡市の皆さん、 50.620MHz AMでお話しましょう。
写真:日本平(静岡市) こんな大きなトランシーバは照れますね。
(2006年5月14日初稿) Eight-tube 6m AM transceiver
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