7球スーパー
FMポータブル
(自作)


写真左-前方から 右-斜め上から

 アメリカでは1938年からFM放送が試験的に始まり、6K86SK7などの メタル管を使ったFM専用ラジオが市販されました。 1945年1月から周波数がそれまでの42-50MHzから88-108MHzに変更になり、 このころ次々と登場したmT管を使ったAMとFMが受信できるラジオが 一般的になりました。 1940-1950年代には多種多様のポータブルが登場しましたが、 FM放送が受信できるポータブルは見当たりません。 FMステレオ放送開始(1961年)以前ということもあり、特に魅力のある放送ではなった ということでしょうか。

 わが国ではFMの試験放送開始の1957年がポータブル終焉(しゅうえん)の年でしたから、 FMの受信できるポータブルなどは望むべくもありません。
 ヨーロッパでは早くからFM放送が発達したこともあり、 西ドイツでは1950年代に超高級ラジオとしてAM/FMポータブルが 何機種か製造され、アメリカにも輸出されたようです。

 その当時の超高級機には遠く及びませんが、今回は半導体を使わずに電池管だけで FMポータブルを作ってみました。

構成と部品
 西ドイツのAM/FMポータブルのFMラジオ部分の構成は、

RF増幅ナシ(88-108MHz)
DC90またはDF97 自励コンバータ
1AJ4/DF96またはDF97 IF増幅(10.7MHz)3段または4段
ダイオード2本 レシオデテクタ
1AH5/DAF96 低周波増幅
3V4/DL94 電力増幅
B電圧は90V

 この構成をそのまま真似て、IF増幅は3段の6球FMポータブルを想定して部品を そろえてみました。
電池管の発振回路
 DC90またはDF97の自励コンバータは技術的に困難ですので、 最初からあきらめていました。 そこで1R5または1AB6の自励コンバータの可能性を試してみました。 1R51AB6で通常使われる反結合型グリッド同調発振回路では、 30MHzを発振させることも容易ではありませんが、 単一コイル型プレート同調発振回路またはコルピッツ発振回路を使えば100MHz程度の 発振は可能です。

 単一コイル型プレート同調発振回路はコイルがやや難しく、 コルピッツ発振回路はバリコンが2つ必要です。

発振管と混合管を分離
 1R5は第1グリッド、第2、第4グリッドに接続した発振コイルとは別に、 第3グリッドにアンテナ同調回路を接続すると、一種の吸収現象で 発振が止まってしまいNGでした。 1AB6もバリコンの羽根が入ったところで発振が停止してしまうため、 結局シンプルな1R5の3極管接続の コルピッツ発振回路と混合管1AJ4の組み合わせにしました。

 コイルは1.6mm径の錫メッキ線を7ピンmT管に巻きつけて作りました。 発振コイルは5回、アンテナコイルは4回、リンクコイルは2回。 コイルの巻幅を広げる(コイルを引っ張って伸ばす)と10MHz以上周波数を 引き上げることができますが、発振が弱くなります。

IF周波数を10.7MHzから1.75MHzに変更
 真空管FMラジオ用IFTを4本使って正攻法で臨んでみたのですが、 IF増幅3段で利得はわずかに8倍で、これでは話になりません。 アメリカの初期のFMラジオには中間周波数2.1MHz、6SK7のIF増幅2段と 6SJ7リミッタという機種がありますので、 ここは中間周波数を下げてハイL、ローCの IFTを試してみることにしました。

 トランジスタラジオ用の発振コイル(赤いコア)と10pFのコンデンサで単同調IFT としました。 意外と調整範囲が狭いため、同調周波数は1.75MHzとしました。

スロープ検波
 検波回路は、IFTをもう一つ追加してダイオード2本によるワイス検波回路が 適当だと考えます。 しかし、半導体ダイオードを使わないラジオにしたかったので、 あえてスロープ検波としました。

 スロープ検波回路の実態はAMラジオの検波回路そのもので簡単な回路なのですが、 反面SN比、効率が悪く歪も多いと言われています。 しかしわが国でFM放送が始まったころには、AMカーラジオに取り付けて FM放送をスロープ検波で聴くコンバータが市販されていました。 私も使ったことがありますが、AMラジオ並みの音質で聴くことができたと記憶しています。

上部から見た写真
 真空管用のIFTを取り去ったあとに、小さなトランジスタラジオ用OSCコイルでは、 視覚的なバランスが取れません。

糸かけダイヤルとボリューム/スイッチ
 写真ではわかりづらいのですが、小型のプーリを使った糸かけダイヤルを採用しています。 減速比は5:1。

地元静岡のFM放送局は次の2局です。
K−MIX(静岡FM 79.2MHz-1kW)
NHK FM静岡(88.8MHz-1kW)



7球FMポータブル 定格表
型式7球スーパーヘテロダイン
受信周波数67-90MHz
使用真空管1AJ4(フィリップス)x4、1R5(日立)、 1AH5(松下)、3Y4(松下)
感度ラジカセ程度
電気的出力150mW (推定)
電源A:1.5V B:72V(9Vx8)
消費電力1.5V-225mA 72V-11.8mA
スピーカーダイナミック 10cm
形状295x215x80 mm(ケース280x200x80 mm:明邦化学工業製 B5)
アンテナ 770mm
重量1.33kg(電池含む) 0.93kg(電池含まず)
製作年月2007年11月


7球FMポータブル 回路図

調整と結果
 AMラジオ用に開発された電池管だけでFMラジオができないだろうか、 と考えたのが始まりでした。 乾電池から供給できる電流には限りがありますので25mA管を多用しましたが、 発振管の1R5だけは譲れません。 1R5SF1R5は定格では同じような性能を発揮しますが、 バリコンで発振周波数を下げていくと発振の強さは周波数とともに低下し、 1R5SFは途中で発振が停止してしまいます。

 同調回路と局部発振のトラッキングが大きくずれると受信できないのは当然ですが、 高周波増幅がありませんからトラッキングが少しずれても、 コンバータ・ノイズが気になります。 発振回路は神経質ですから、74-89MHzくらいを発振するようにコイルを伸縮して調整してから、 あとは同調回路のコイルの伸縮とトリマでローカル2局が受信できるように 調整しましたが、なかなか面倒です。
 混合管との結合容量は混合管のグリッド・コンデンサにビニル線を巻きつけて調節しました。

 IF増幅をきっちり1.75MHzに合わせると、3段増幅では発振してしまいます。 それではと2段増幅にしてスロープ検波すると歪がひどいのです。 そこで自分の耳を頼りにIFTのコアを少しずつ動かしてIFTの周波数を互いに離調 した状態にしてみたところ、歪が少なくなる点があることがわかりました。 その分感度が下がってしまいますので再び3段増幅にもどして、IFTを調整し トラッキングを念入りに合わせたところ、歪も少なくAMラジオより高音が出るようになりました。

 同調にはややコツが必要です。 同調ダイヤルを低い周波数から徐々に高い周波数の方向に回していくと最大音量の点があり、 さらにダイヤルを回すと音声にノイズが混じるようになります。 そのやや手前に歪が少ない点がありますので、注意深く探す必要があります。 スロープ検波とはいえ、AMラジオよりずっと良い音がします。 例え同調がずれても、鬱陶しい(うっとうしい)ホワイトノイズが出ないのは長所かもしれません。

 局部発振は比較的安定していて 数時間連続して聞いていてもダイヤルを合わせ直す必要はありませんでした。 感度はまずまずで出力20Wというコミュニティー放送も2局受信できました。 IFを低く設定したため、3.5MHz高い周波数で同じ放送局が同じような感度で 受信できるところが一般のFMラジオとは異なる欠点です。 しかし当地では放送周波数同士が大きく離れているため、実用上は何も困りません。 A電池0.9V、B電池35V程度にどちらかの電圧が先に下がるまで、放送が聴こえます。
(2008年9月22日一部改訂)
(2007年11月11日初稿)
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