5球スーパー
トランスレス・スーパー
(自作)


写真左-前方から 右-斜め上から

 1931年にアメリカで発表された自動車用真空管 236237238239 で初めて6.3VDCのヒーターが登場し、 翌年誕生したST管ではAC、DCのどちらでも使用可能になりました。 1933年にはヒーター電流を300mAにそろえた出力管 43(25V、300mA)、 整流管 25Z5(25V、300mA) が登場し、300mAヒーターの真空管を直列接続としてB電圧ともども 商用電源から直接供給する、いわゆるトランスレス方式が可能になりました。 電源トランスを使用しないため軽量、小型、廉価で 110VAC だけでなく、 当時アメリカに残っていた 110VDC 配電のいずれでも使用できる交直両用 5球スーパーラジオが成立したのです。

 わが国では1932年(昭和7年)ころすでに7球、8球スーパーを発売していた孤高のメーカー三田無線(デリカ)が、 1934年(昭和9年)ころに5球トランスレス・スーパーのシャシを発売しました。
 周波数変換 6A7、中間周波増幅 78、検波・増幅 6B7、 電力増幅 43、整流 25Z5 という5球のラインナップで、 フィールド・コイル付のダイナミック・スピーカーがシャシの中央に 固定されていました。 中間周波数は175kHzでした。 トランスレス・ラジオは多くの利点があるものの欠点もあります。 商用電源電圧が100Vと低いわが国では、 このころの真空管を使ったトランスレス方式は感度、出力の双方で不利です。 しかし当時の並四などと比べれば、圧倒的な感度と出力を持っていると 言っていいでしょう。 面白そうなので、今回はこの回路のレプリカを作ってみることにしました。


三田無線5球トランスレス・スーパー 回路図

6A7とトランスレス
 周波数変換用7極管 6A7 はサプレッサー・グリッドを持たないため、 4極管同様にプレートからの2次電子の影響を大きく受けます。 それを防ぐために感度を左右するスクリーン・グリッド電圧を プレート電圧の半分以下に抑える必要があります。 プレート電圧が250Vならスクリーン・グリッド電圧は100VでOKですが、 トランスレスではプレート電圧100Vならスクリーン電圧は50Vとなり感度が下がります。 そのうえ50Vでは中間周波増幅管のスクリーン電圧と共用するわけにもいきませんので、 AVCによるスクリーン電圧の変動を抑えるために ブリーダー電流を流しています。
 特殊な構造でサプレッサー・グリッドの役割を備えた 6K8、 サプレッサー・グリッドを持つ 6SA76BE6 にはこういった制限は無く、 トランスレスでも性能に遜色がありません。 感度は若干劣りますが、この回路では 6A7 の代わりに3極5極管 6F7 を挿し替えて使用できます。

横行ダイヤル
 トランスレス・ラジオでの中間周波増幅管 78 は、 プレート電圧とスクリーン電圧が共通で変動が小さいため、 トランス式よりもAVCがよく効きます。
 78 のカソード抵抗と並列にいれた発光ダイオードは、 同調していないときに点灯、弱い電波で薄暗くなり、 強い電波で消灯、とマジック・アイ 1N3 と似たような動作をします。 明るさではとてもかないませんが、部品は発光ダイオードが一つ増えるだけですので、 同調指示を兼ねた横行ダイヤルの針(左の写真ではダイヤルの12と14の間の緑色の点) として使用してみました。
 工夫すれば同調したときに発光する方式もできます。

ドライブ・シャフト
 6mm径のアルミの棒にネジを切ってナットを3個はめ、 ナットとナットの間にアルミ板の軸受けを配します。 見えている2個のナットでロックナットとしています。
 グリスを少し塗ると、意外と滑らかに動きます。

シャシ配置
 配置が良かったのか、周波数が175kHzと低いからなのか、 このラジオでは 78 の代わりに 6D6 をシールド・ケースなしで使用できます。
DAVC、半固定バイアス
 検波・増幅管として双2極5極管 6B7 をカソード・バイアスで使用していますので、 同調していないときにはAVC電圧が正電圧になってしまいます。 そこで絶対に正電圧の出ないDAVC方式に変更しました。 DAVCは歪みの原因となるという説もありますが、 信号レベルが 6B7 のカソード電圧を 超えるまでAVC電圧が発生しないため、 弱い信号では最高感度で動作するというメリットがあります。 ここでも 6B7 の代わりに3極5極管 6F7 を挿し替えて使用できます。
 出力管 43 はバイアスが深いために、 カソード・バイアスを使用するとその分プレート電圧が下がってしまい 出力が小さくなってしまいますので、 平滑回路の電圧降下を利用した半固定バイアスを採用しています。 また、フィールド・コイル付スピーカーは使いませんので、 整流管 25Z5 の2つの2極管は並列で使いました。

175kHzIFT
 175kHzのIFTはジュースの空き缶と市販のインダクターで自作しました。

 局部発振周波数を814kHzに固定しておいて、639kHzのローカル局を 最高感度で受信できるようにIFTのトリマを調節しました。


アンテナコイル、発振コイル
 計算でアンテナコイル205μH、 発振コイル160-200μH、パディング・コンデンサ1,070pF(920+150) と仮定して巻いてみました。
今回もフリーソフト 「ソレノイド形空芯コイルの計算」を頼りに自作しました。 巻き終えたコイルはLCメーターでインダクタンスを測定し、微調整しました。

 アンテナ・コイルは25mm径のベーク・ボビンに 0.26mm径のポリウレタン線を1次側20回、 0.1mm径のポリウレタン線を2次側は84回巻きました。

 発振コイルは31mm径の写真フィルムのケースに プレート側は0.26mm径のポリウレタン線を25回、 グリッド側は0.1mm径のポリウレタン線を63回巻きました。 ケースの底に4mm径の穴を開け、鉄芯としてM6、50mmのボルトをねじ込みます。 鉄芯を深くねじ込むとインダクタンスが増加します。

 いざはんだ付けをしてみるとフィルムのケースは見事に熱で融けてしまいます。 そこで、左の写真のようにフィルムのケースの一部に厚紙を貼って、 そこに鳩目を打ってみたところ、ゆっくりはんだ付けをしても 熱に耐えられるようになりました。
 巻き終わったコイルは写真左の高周波ワニスで固めました。


5球トランスレス・スーパー定格表
型式5球スーパー
受信周波数500kHz-1,860kHz
使用真空管6A7、78、6B7、43、25Z5
感度ST管5球スーパー程度
電気的出力0.7W (推定)
電源100VAC/DC
消費電力-
スピーカーダイナミック
形状250x170x180H mm
重量本体1.7kg
製作年月2005年5月


5球トランスレス・スーパー(レプリカ) 回路図
 回路はオリジナルを尊重しつつ、DAVC、フローティング・アースに変更しました。 各部の電圧などは調整済みです。

フローティング・アース
 フローティング・アースとは、ACラインと直結したトランスレス・ラジオのアースライン をシャシから浮かして配線し、感電から身体を守る方式です。 シャシから浮かして取り付けることの難しいバリコン、外部に端子を持つアンテナコイルの 1次側、メタル管、GT管の金属外皮、場合によってはバイパスコンデンサ の一方の端子をシャシに直接接地します。 アースラインとシャシは0.1μF程度のコンデンサと220kΩ程度の高抵抗を並列にして 接続します。

試聴
 トランスレスですが感電もなく感度や音量、音質は他の5球スーパーに比肩するほどで、 出力管 43 の音も悪くないと思います。 IFを175kHzにとったことについて、選択度や利得など 何も測定も検討もしていませんが、選択度はよく、同調もシャープな印象です。 本来の放送周波数よりダイヤルの350kHz低いところでイメージ信号が受信できますが、 予想よりもずっと低レベルでした。 さしあたって実用には問題無いでしょう。
(2009年9月20日ダイヤル目盛り変更)
(2007年10月30日追記)
(2005年5月2日初稿)
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