高1中2受信機
9R-42 レプリカ
(自作)


写真左-前方から 右-後方から

 1954年、トリオからmT管、GT管を混用した高1中2受信機 9R-4 (550kHz-30MHz)と 派生モデル 9R-42 (550-1,600kHz、3.5-30MHz)が発売されました。 9R-42 はアマチュア無線専用と銘打って、2セクション・バリコン (430pFのバリコンを180pFと250pFに分割してある)を採用することで 短波3バンドでは180pFのバリコンを使って狭いバンド幅で同調を容易にし、 中波帯は180pFと250pFを並列にして普通の430pFバリコンとして受信します。 しかもダイヤル上の同じ位置で短波の3バンドが7MHz、14MHz、28MHzというような 倍数関係で受信できるように設定してあるため、一挙動でバンド変更ができることが特長でした。
(* 9R-49R-42 の発売年代は「ラジオ工房」より。 9R-42J は外観大きさはほぼ同じですが、整流管以外がすべて mT管で回路も異なる後継モデルです。 J は Junior の略。)

 今回は特殊な2セクション・バリコンを使っていた受信機 9R-42 の レプリカを作ってみることにしました。

 回路と部品はオリジナル設計にできるだけ忠実に 従うことにしました。 ただ、私の好みで真空管はGT管に統一しました。

 写真は、ケース、パネル、抵抗、コンデンサ、配線材を除く部品すべて。 ケースもアイデアルの SK-2 を購入したのですが、今回は穴の数がかなり多く、鉄シャシの工作は 手強いとの判断により、アルミシャシに変更してしまいました。


9R-42 レプリカ 定格表
型式9球高1中2スーパーヘテロダイン
受信周波数A:550-1,600kHz (実測:533-1,620kHz スプレダー使用により527kHzまで受信可能)
B:3.5-7.5MHz (実測:3.437-7.714MHz)
C:7.5-15MHz (実測:6.874-15.428MHz)
D:15-30MHz (実測:13.748-30.856MHz)
使用真空管6SK7-GTx3(東芝)、6SA7-GT/Gx2(RCA)、 6SN7-GT(ソブテック)、
6SQ7-GT(NU)、 6V6-GT(ブライマー)、5Y3-GT(GE)
感度-
電気的出力3W (推定)
電源100VAC
消費電力-
スピーカーダイナミック(外付)
形状400x240x250H mm(シャシ400x230x100H mm)
重量本体7.2kg(スピーカー含まず)
製作年月2007年2月

部品
バンドスプレッド付バリコン
 9R-42 に使われている、シャフトが2本あるバンドスプレッド付バリコンは、 大容量のメイン・バリコンと小容量のスプレッド・バリコンが一体となっていますが、 なんと逆回転です。 メインは左手でスプレダーは右手で操作する配置と半円を描く上下動のダイヤルによって、 ごく自然な左右対称の動きとして解決しています。
 しかし、シャフトが2本あるために直径 6.5cm を超えるプーリは取り付けられず、 2セクション・バリコンも商品としては一般受けせずに消えてゆきました。

コイルパック
 9R-429R-42J には市販の2セクションバリコン用コイルパック KR-42C が使われていました。 その後継モデル 9R-59 に使われたコイルパックには、ANTコイルのトリマーがなくなり、 Cバンド、DバンドのOSCコイル調整用にピストントリマが採用されていました。 9R-59 用のコイルパック方が調整がやりやすそうですし、市場に相当数が 存在するようですので、こちらをベースに改造することにしました。

 ANTコイルにトリマを取り付け、BバンドのコイルをトリオSシリーズ・コイルの SHと交換、DバンドのOSCコイルをトリオSシリーズ・コイルの SGのRFコイル(SJのOSCコイルとほぼ同じ)と交換、 そして次のようにパディング・コンデンサを変更しました。
Bバンド 1,250pF ---> 1,550pF(1,250pF+300pF)
Cバンド 4,000pF ---> 3,000pF
Dバンド なし   ---> 6,000pF

BFOコイル
 本来はグリッド同調の反結合型発振回路ですが、 入手困難なため、手持ちの BFO-B(写真左)を使ったハートレー発振回路に変更しました。
シャシ
 部品の配置(シャシ上面)
 シャシとパネルの配置がなかなか難しく、トリオの技術資料の実態配線図を参考にしました。 ダイヤル、バリコン、コイルパックの位置には互いに制約があります。 現物あわせで採寸と加工には1ヶ月ほど時間を費やしました。 アルミシャシに変更したのは正解でした。
 GT管ソケットの寸法に合うシャーシパンチがないため、28mmφの ホールカッターという商品を電動ドリルに装着して穴をあけました。 ソケットによっては、もう少し大きな穴をあける必要があります。

糸掛けダイヤル(正面パネルを裏から見たところ)
 シャフトを短く切断したバリコンを使うために、試行錯誤の末、バリコンと完全に 分離できる糸掛けダイヤルを考案しました。 この写真の状態で動きます。

 現物あわせで糸の長さをきめて印(しるし)をつけておけば、糸が緩んだ状態で糸掛けが可能です。 ダイヤルのバックラッシュを防ぐために、プーリのスプリングは硬めのものを使います。 バリコンのブッシュも水道のコマ・パッキンを使用してガチガチにしてあります。

部品の配置
シャシ内部 配線前

部品の配置
シャシ内部 配線後
 一箇所も結束してないのは、いつもと同じです。 コイルパックを縦断しているシールド線はAFライン。 一番ハムを拾わないルートがここでした。 どなたか、ハムを拾いにくいシールド線をご存じないでしょうか。

部品の配置
シャシ上部

シャシ底部
 シャシの底のフタの干渉やボディ・エフェクトを避けるために、この穴に調整棒を挿し込んで コイルパックの調整をします。 今回はシャシの深さが10cmもあるので、フタの影響はなかったようです。

9R-42レプリカ 回路図
各部の電圧は何度も測定しましたが、同じ値を示す確率は低いようです。 電流は一部を除いて計算値。

9R-42 レプリカの評価
 高性能な受信機を望んでいるわけではありません。 この受信機に何ができて、何ができないのか知りたかったのです。 大きくて重く、当時のアマチュア無線の雰囲気がいっぱいです。 AMを聞く分には感度も選択度も十分で、音質も聴きやすく自然です。 高めのB電圧に設計してあるためダイナミック・レンジが広く、 増幅管の内部抵抗も高くなることからIFT本来の性能を発揮します。 しかし、SSBを受信するにはノイズがひど過ぎます。 高周波増幅管6SK7-GT6SD7-GT6SG7-GTに挿しかえるだけで 大幅にS/Nが改善されますから、オリジナル 9R-426BD6の代わりに6BA6を 使えばさらによかったように思います。 とはいえ、このままでも7MHz帯のSSBならば5mのビニル線アンテナでも日本中から 通信が聞こえてきます。

 短波受信機に短波帯のダイヤルがないのでは、画竜点睛(がりょうてんせい)を 欠くと言わざるを得ませんので、手書きでダイヤルを較正(こうせい)しました。 その甲斐あって使い勝手が随分と向上しました。

 2セクション・バリコンを使っていますので、メイン・ダイヤルのCバンドはBバンドの2倍、 DバンドはCバンドの2倍の周波数ダイヤルになっています。 すっきりして見やすく、バンド・スイッチを切り替えるだけでディップメーターの 高調波が受信でき、調整には至極便利です。 また、各バンドのトラッキングを見直しましたので、B、Cバンド同様Dバンドも 海外の放送局が高感度で受信できます。 全域で感度差が少なくCB無線もよく聞こえますが、前述のとおりノイズが多く アマチュア無線の28MHzSSBを捕らえるのはなかなか困難です。 メイン・バリコンの減速比は10:1です。

 9R-42 のスプレッド・ダイヤルには、本来は回転の角度(%)の 目盛りだけが刻んでありました。 9R-59 のような周波数直読目盛りをつけなかった理由は、 スプレッド・バリコンの容量設定のまずさにあると思います。
 分かりやすいように、メイン・バリコンを7.1MHzに固定したときの周波数直読目盛りを、 スプレダー(スプレッドバリコン)に追加してみました。 ダイヤルの0-50%で約0.1MHzをスプレッドしますが対数的な目盛りのため、 周波数の直読は大変困難です。 50-100%は直線的な目盛りですが約0.6MHzもカバーするため目盛りが粗く、 スプレッド本来の目的には向きません。 工夫して常に0-50%の範囲を使用するべきでしょう。 なお、スプレダーは0-100%で146度動き、容量変化0-12pF、減速比12:1です。

 本来 9R-42 はBFOの周波数が固定で 9R-42J から 可変になったのですが、ここでは可変としました。 BFOは30pF(9-39pF)のタイト・バリコンと直列に30pFのコンデンサを入れることで、 発振周波数を455kHz±2kHzにすることも可能ですが、それでは時間の経過とともに 周波数が変動して実用範囲から外れてしまうことがあります。

 Sメーター回路はRF増幅管のカソード電圧の変化を、B電圧を分圧したものと比較して 1mAのメーターを振らせています。 そのため、電源を入れから高周波増幅管6SK7-GTが暖まるまでのしばらくの間、 メーターの針が振り切れてしまいますが、 測定したところ最大でも1.6mAの電流が流れるだけですから心配は無用です。 直熱整流管5Y3-GTの代わりに、傍熱整流管6AX5-GT6X5-GTの兄貴分) または5CG4(日本独自の球)に変更すればB電圧もほとんど変わらず、メーターの針が振り切れるのを防ぐことができます。 このSメーター回路はB電圧が時々刻々と変化することにより0点がずれます。 そのため、パネル前面に0点調節のつまみが出ています。

 直列リミッタの回路はカソードが浮いているため、ハムは避けられません。 アメリカの受信機では、ハム対策としてリミッタ管・検波管のヒーター電圧を下げるのは常識でした。 また、同年代の日本の菊水の受信機にはヒーターに直流バイアスを掛けてあります。 値段や対象が違うからでしょうか、9R-42 には対策なしです。 実際のリミッタ効果は不明ですが、 ハムがノイズに埋もれてしまってあまり気にならないのも事実です。 普段はリミッタを使用しないため、実用上ハムは問題になりません。 電源トランスにヒーター巻線がもう一組あれば対策できたのですが、残念です。
(2007年11月27日加筆)
(2007年2月21日初稿)
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