2V電池管4球スーパー
(自作)


写真左-前方から 右-斜め上から

 1930年代のアメリカでは、自動車ラジオが普及し自動車用に設定した真空管の ヒーター電圧6.3Vがスタンダードになり、 電灯線の来ていない地域用には、フィラメント電圧2Vの電池管が開発されました。

 2V電池管の外観は交流管と同じで、電源にはA、B、Cの3種類必要でした。 A電池はフィラメント用電池として2V蓄電池から供給するか、 6V蓄電池あるいは3V乾電池からレオスタットまたは安定抵抗管で2Vに落として使用します。 B電池には67.5Vの積層乾電池を2個直列にし、プレートには135Vを、 スクリーンには中間タップから67.5Vを供給するのが標準的でした。 C電池はバイアス用電池のことです。 交流管のようにカソードバイアスやグリッドリークバイアスが 利用しづらいため乾電池からバイアス電圧を供給します。 ほとんど電流は流れませんが出力管用には C電池として積層乾電池を使用することもありました。

 今回は、2V電池管を使って4球スーパーを作ってみることにしました。 小型に作ることは難しく、ポータブルにはできませんから交流電源専用としました。 そのおかげで、周波数変換管 1A6 の発振停止の 心配もありませんし、出力管には大食らいの 33 が使用できます。 中間周波増幅には歴史が古い 34 を使うとして、 検波・増幅管には 1A61B5/25S1F6 の3本が候補にあがりました。 3本ともUZソケット(6本足)の球で簡単に配線の変更が可能であることから、 実際に回路を組んで比較検討してみました。

1A6を使った検波・増幅回路例
(左図参照)
 アメリカ・CROSLEY社の 5B3 というモデルは、高周波増幅付でAVC回路のない5球スーパー ですが、周波数変換用の 1A6 を検波・増幅に使うという変則的なラジオです。 低周波増幅段にボリュームは無く、高周波増幅の利得と入力を加減して音量調整をする、 この当時の一般的な方法です。 SPARTON社ではこの回路でAVCをかけたラジオが何種類もありました。

 回路図をご覧の通り、1A6 の第2グリッドを検波用2極管のプレートとして使用します。 2極管検波の負荷抵抗500kΩに発生した低周波信号をさらに第4グリッドに入力し、 4極管として増幅に使います。 第2グリッドといっても実際には支柱だけですので他への影響は小さく、第3グリッドのスクリーンで 上下を切り離して使用することができます。


1A6を使った検波・増幅回路(左図参照)
 実際に組んでみるに当たって、増幅部には半固定バイアスを採用し、 遊んでいる第1グリッドはDAVCとして利用してみました。 しかし、そのため 1A6 全体でグリッド検波回路を形成することになってしまい、 2極管検波のボリュームを絞っても、グリッド検波された音が常に聞こえます。 これは、ラジオでは致命的な問題です。

 新品の真空管を何本か挿し替えてみましたが、わずかながら歪が気になりました。 大変ユニークで面白いのですが、そんなこんなで今回は問題点を解決できませんでしたので 使用を見送ることにしました。 市販ラジオの回路を調べてみると、やはり第1グリッドは使わずに普通のAVCとすれば よかったようです。

1B5を使った検波・増幅回路(左図参照)
 アメリカのスーパーヘテロダインラジオに早くから検波用双2極管を用意していたのは MAJESTIC社くらいでしょうか。 RCA社からは、周波数変換用7極管と前後してやっと検波用2極管を含む 複合管が登場します。 家庭用ラジオには必ずしも必要でなかったAVCですが、自動車用ラジオでは必需品となりました。 2V電池管の検波管が2極管を2組持つのは、固定バイアス と組み合わせたDAVC用に音声検波用と別の2極管が必要だからです。

 1B5/25Sでは、1A6 で気になった歪みや、音量を絞れないといった問題は 全くなく、さすがに検波・増幅用に開発されただけのことはあります。 しかし、ローカル局では十分な性能を発揮するものの、当地静岡市で関東のニッポン放送を 聞く場合には増幅度不足で 33 を目いっぱいドライブできません。

1F6を使った検波・増幅回路(左図参照)
 1F6 は真空管の主流がST管からG管に移った後に開発されたため、 見かけるのは同等のG管 1F7-Gの使用例ばかりです。 交流管の 6B7 などと似た球で、内部シールドを持つリモートカットオフ管で 中間周波増幅にも使用できます。

 1F61B5/25S と比べて明らかに増幅度が高く、普通の5球スーパーと同じくらい 高感度で軽快な印象を受けます。 しかし、1B5/25S では気にならなかったハム音が、無信号時には わずかに聞こえるようになりました。 どうやらフィラメント電源のリップルが増幅されて聞こえるようです。

 A電源回路の見直しは設計の問題でもありますので、次回の課題としたいと思います。 今回は実用上問題の無い 1B5/25S を採用することにしました。

2V電池管4球スーパー 定格表
型式4球スーパーヘテロダイン
受信周波数515-1,666kHz
使用真空管1A6(NU)、34(RCA)、 1B5/25S(Sylvania)、33(Sylvania)
感度5球スーパー程度
電気的出力0.7W (推定)
電源100VAC
消費電力-
スピーカーダイナミック(外付)
形状300 x 210 x 180H mm(シャシ 300 x 180 x 70H mm)
重量本体2.3kg(スピーカー含まず)
製作年月2007年6月


部品
抵抗、コンデンサ、配線材、シャシを除く部品すべて
真空管は 33(RCA)、34(RCA)、1A6(NU)2本。

シャシ
設計、部品の配置、採寸と穴あけまでで、ラジオの素性が決まります。 無難に余裕を持った配置にしました。

シャシ上部
いつもの裸シャシですが、感電の恐れのある部品はシャシ内部に追いやりました。 バリコンが小さく、ちょっと物足りないような気もします。
IFTにはトリオ製では最も利得の高い T-20 型を採用しました。

中間周波増幅の 34 は内部シールドを持った5極管ですので、シールドケースは不要です。

部品の配置
シャシ内部 配線前
トランスは左からB、C電源用、A電源用、出力トランス

中央の基板はA電源用の安定化電源ですが、最終的には変更しました。

部品の配置
シャシ内部 配線後
電源関係はラグ板に取り付け、ふたつの島にしました。

今回もノイズフィルタを使いました。 効果としてはインバーター制御機器のノイズが 若干軽減する程度ですが、同調ハム防止用のコンデンサを兼ねています。

安定化電源
A電源フィラメント用として、2.0V、440mA必要です。

ナショナルセミコンダクター社製3端子レギュレータ LM317 を 使ってみましたが、入力が 4VAC では出力2.0Vにとどきませんでした。 入力が 6VAC では発熱がひどいので、安定化電源はあきらめました。 よく分かりませんが、もう1ランク大きなものが必要ではないかと思います。

結局、普通のCとRを使った平滑回路にしました。 電解コンデンサには、もう一桁大きな容量のものを使用すべきかもしれません。
コイル
大昔の嘉穂無線の4球スーパー用のデッド・ストックで、トラッキングレス・バリコンと 組になっています。 左がアンテナコイル、右が 6BE6 用発振コイル。

6K8を使った5球スーパーでは、リアクションコイルとして右の発振コイルに0.26mmの ポリウレタン線を50回巻いて使用しました。
今回、右の発振コイルにリアクションコイルとして0.1mmのポリウレタン線をグリッドコイルとの間隔を 詰めて60回巻いて使ってみたところ、コイルの分布容量が大きく1,500kHz以上が受信できない、 発振が強すぎる、電圧降下が大きいといった問題が起きました。 そこで0.26mmのポリウレタン線を1mm間隔を置いて40回巻いて使ってみたところ、 1,650kHz以上まで受信できるようになりました。 しかし今度は発振が弱すぎるようですので、最終的に50回巻に変更しました。

糸掛けダイヤル
プーリの直径3cm、減速比5:1
この程度の減速比でも十分使いやすいと思います。

透明なアクリル板の裏に、目盛りを印刷した透明なシールを貼り付けました。 針は錫メッキ線に赤のペイントを塗りました。 糸は今回も墨つぼ用0.8mmナイロン糸で、使い始めはかなり伸びます。
目盛りはデジタル・ディップメーターと分度器を使って較正(こうせい)しました。

ダイヤルの後ろ側が透けて見えるように作りました。 写真では目盛りが見難いのですが、実際には斜め上から見下ろすように使いますから、 シャシのシルバーがバックとなって目盛りもよく見えます。

 余談ですが、ナス管とその後の保守用のST管は、最大定格等が異なる場合があります。 RCAの真空管規格表RC-10を見ると、出力管 233 の最大プレート電圧は135Vです。 対するST管 33 は180V。
 ナス管 238 の最大プレート電圧が135V、236237239 は180V、 ヒーターは6.3V直流が指定で、そこが自動車用といわれる所以(ゆえん)です。 一方、ST管の 36373839 は普通の交流管で 最大プレート電圧はいずれも250Vです。
 初期の RCA 224 には上の写真のような規格表が付属していました。 最大プレート電圧180V、最大スクリーン電圧75Vです。 その後登場した 224A は、それぞれ250V、90Vと規格が大きくなっています。 旧い球を使うときには注意する必要があります。

2V電池管4球スーパー 回路図

 スイッチを入れてから1秒足らずで放送が聴こえてきます。 考えていたより高感度で交流管を使った5球スーパーに引けをとりません。 電灯線アンテナの効果で、アンテナなしでローカル局と関東のニッポン放送が受信できます。

 電源は半固定バイアス式でブリーダー電流をたっぷり流していますので、AVCが働いても スクリーン電圧やバイアス電圧は安定しています。 出力管 33 は意外にも熱くなりますが、癖のない大きな音が出ます。 2V電池管を使ったことだけで満足ですが、一言で言えば普通のラジオですね。
(2007年6月23日初稿)
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