3バンド5球スーパー
(自作)

 

写真左-前方から 右-斜め上から

 終戦後わが国でも短波の受信が解禁され、全波受信機も 発売されるようになりました。 短波でも使える新型コンバータ管 6W-C5 が登場し、 折からのスーパーヘテロダイン人気もあって  ST管の5球スーパーが一世風靡(いっせいふうび)しました。

ナショナル AS-300 A:530-1,690kHz B:5.85-20MHz
ナショナル AS-350 A:535-1,605kHz B:6-18MHz
ナショナル AS-400 A:535-1,605kHz B:2.5-7.8MHz C:7.5-22MHz

 上記3例は 6W-C5 を使った5球スーパーですが、市販全波ラジオの 受信周波数の上限は 18MHz または 22MHz あたりが多かったようです。 これらと同じ真空管構成、 6W-C5 = 6D6 = 6Z-DH3A = 42 = 80BK で、 はたして 30MHz まで受信できるでしょうか。
 というわけで、中波と短波2バンドの3バンド5球スーパーを作ってみました。

コイル
 今回はスターの2バンドコイル 2BL(535-1,605kHz、3.5-10MHz:写真右側2本)と トリオのSシリーズコイル SG(10-30MHz:写真左側2本) という異色の組み合わせで3バンドとしました。 2バンドコイルの切換方法が独特で、回路がやや煩雑(はんざつ) になってしまいました。

 スター 2BL には今回使用した、アンテナコイルの端子が5本の型と、 4番、5番端子をまとめた4本端子の型があります。 小型ですが、インダクタンス微調整用の可変ループはありません。
シャシ・パネル穴あけ
 多バンド・ラジオを作るならば、コスト、再現性、製作の容易さから コイルパックを利用するのが一番です。 しかしながらコイルパックは、1970年ころには生産中止になっていたようですので、 現在では中古品の出物も少なく高値で取引されています。

 2バンド・コイルは比較的入手は容易ですが、 部品の配置や細かい配線などに若干の経験が必要です。
取付金具
(写真左上)松下の2連バリコン 2SC43
12-430pF 取り付けビスは ISO の 4mm。
防振ゴム等は使用せず、直付け。

(写真中上)アルプスのロータリースイッチ Y-300
3段9回路3接点・シールド2段
バンド切換スイッチとして使用
2009年ころ生産中止(2014年4月9日追記)。

(写真右上)ロータリースイッチ 6回路2接点
AVC/BFO 切換スイッチとして使用

(写真左下)マジックアイ・取付金具(電解コンデンサ取付金具改造)

(写真右上)スイッチ付ボリューム 500kΩ(A)
トランス
 電源トランス(写真左)と出力トランスは(写真右)は 嘉穂無線の4球スーパー・キット部品のデッドストック。 ダイオードによる半波整流用のため、 整流管用ヒータートランス(写真中)を別に用意しました。
 80BK の代わりに 80HK12F12FK8080K を挿し替えて使えるように設計しました。
部品配置/配線・シャシ上面
 普通の5球スーパーの配置です。 バリコンはボールドライブで 6:1 に減速しています。 中波受信にはちょうど良いのですが、短波受信用にもう少し減速比を大きくしたいところです。 IFT はトリオの T-6

 寸法の短いマジックアイ 6AL7-GT を使ってみましたが、 緑の光の輪郭がはっきりしません。
部品配置・シャシ内面
 少し部品を詰め込みすぎたかもしれません。 もう一回り大きなシャシのほうが作りやすいと思います。
配線・シャシ内面
 IF 段には簡易 BFO を設けました。 IF 増幅管のプレート配線に一本のビニル線を数回巻きつけ、そのビニル線の先を コントロール・グリッドの配線に数回巻きつけ、 ストレー容量で正帰還させて軽く発振させ、同時に IF 増幅もします。 そのビニル線の片側をスイッチでグランドに落とせば通常の増幅回路となるため、 こういった簡易短波ラジオの BFO に多用されました。

 5m ビニル線アンテナでも、7MHz のハムバンドは受信できました。


3バンド5球スーパー 定格表
型式5球スーパーヘテロダイン
受信周波数A.530-1,605kHz (530-1,630kHz)
B.3.5-10MHz (3.4-10.6MHz)
C.10-30MHz (9.9-30.1MHz)
使用真空管6W-C5(Sun)、6D6(NU)、 6Z-DH3A(マツダ)、42(松下)、
80BK(NEC)、6AL7-GT(シルバニア)
感度5球スーパー程度
電気的出力1.5W (推定)
電源100VAC
消費電力-
スピーカーダイナミック 10cm
形状300 x 210 x 180H mm(シャシ 300 x 180 x 70H mm)
重量本体4.5kg
製作年月2008年4月


3バンド5球スーパー 回路図

調整と結果
 Aバンドでは何も問題ありませんでしたが、Bバンドは規定の 発振周波数 3.945-10.455MHz に対して、 4.1-4.7MHz くらいがスポットで局部発振停止となってしまいました。 Aバンドの発振コイルとトリマによるナチュラルがちょうどこのあたりの周波数 になるようです。 試しにAバンドの発振コイルのトリマを一杯まで締めると、スポットが なくなりました。 実はBバンドに切り替えたときの、Aバンド発振コイルをショートする配線を 忘れていました。 通常ショートリング付のバンド切換スイッチを使うのは、このように吸収によって 起きる問題を回避するためです。

 Cバンドの規定発振周波数は 10.455-30.455MHz で、このように 高い周波数の周波数変換を1球でやろうとすると、 局部発振もアンテナコイルの影響を強く受けますので、試行錯誤が必要となります。 初め高い周波数で発振しませんでしたが、発振コイルのコアを深く入れ、 アンテナコイルのコアをもっと深く入れたところ発振するようになりました。

 Cバンドでバリコンを回して発振周波数を徐々に下げていくと、12MHz くらいで 局部発振停止。 原因はバリコンのローター(回転する羽根)のアース不良でした。 ローターは摺動子(しゅうどうし)を通じてシャシに接地していますが、 テスターで抵抗値を測定したところ、ローターとシャシ間で6オームほど の値を示しました。 そこで、銅製の摺動子に銅線を直接はんだ付けしてグランドに落とし、 抵抗値を0オームとしたところ問題解決。

 6W-C5 では 30MHz まで使用するのは困難ではないかと 思っていたのですが、手持ちの3本の中古球いずれも大丈夫でした。 もちろん新品は言うまでもありません。 どうやら 6W-C5 を過小評価していたようです。

 しかし本機のような5球スーパーでは、どうしても短波帯で 感度不足となります。 特にBバンドの SSB とCバンドはボリュームを最大にして聴く ことになりますから、ハムが出ないように細心の注意が必要です。 以前から実践していることですが、ヒーター回路は2本のビニル線を撚って配線し、 6W-C5 のソケット脇で接地。 電源回路は平滑コンデンサを1段増やし、トランスから平滑回路までの アース側をシャシから浮かして 6Z-DH3A ソケット脇に接地。 そのようにシャシには交流やリップルを含んだ電流を流さないようにしたところ、 ボリューム最大でもハム音は聞こえませんでした。 しかし、BFO を働かせた状態では若干ハム音が聞こえます。 と言っても実用的にはほとんど気になりません。

ダイヤル
 ダイヤルの指針を赤い透過光で示し、パイロットランプを兼ねました。 初めてこのラジオのスイッチを入れた人の反応は、「おおー」。

 較正(こうせい)した手描きの目盛りに数字を切り貼りし、コピーを透明な円盤の裏側に貼り付けました。 このラジオはAバンドとBバンドは実用になります。 Cバンドは、アジアの放送局や 27MHz 付近の CB 無線は良く聞こえますが、 アマチュア無線などは無理です。 本格的な受信機で聴いても18MHzより上の周波数は静かですから多くは望めませんが、 30MHz まで目盛ったダイヤルには満足しています。

 往時の5球スーパーは受信周波数の上限を 18MHz とすることで、実用域の感度 の向上と選局のしやすさを実現したのでしょう。

ダイヤル目盛のデータは次の通りです。
0 1.4 11.9 20.3 27.2 33.4 38.8 43.7 48.2 52.2 56.1 60.0 63.6 67.1 70.2 73.3 76.3 79.3 83.1 86.1 88.9 93.2 100
MHz (9.9) 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 (30.1)

0 4.0 18.1 28.9 37.5 45.0 51.4 57.1 62.7 67.8 72.4 76.6 80.8 84.4 87.8 91.8 100
MHz (3.4) 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 (10.6)

0 15.1 30.3 41.1 50.5 57.8 64.6 70.7 76.4 81.7 86.1 92.1 100
kHz 530 600 700 800 900 1,000 1,100 1,200 1,300 1,400 1,500 1,600 (1,630)

(2008年4月12日初稿)
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