3バンド6球スーパー
SKY BUDDY S-19R レプリカ
(自作)

 

写真左-前方から 右-斜め上から

 アメリカの有名なアマチュア無線通信機メーカー The Hallicrafters Company (ハリクラフターズ、1932年設立)には、 "Sky Buddy"(スカイ・バディ=空の仲間)と呼ばれる受信機のシリーズがありました。 基本は3バンドまたは4バンド5球スーパーにBFOが付いたシンプルな構成ながら、デザインが秀逸でした。

1935年モデル "5T" 3バンド 6A7 6F7 75 42 80
1938年モデル "S-19" 3バンド 6K8-G 6K7-G 6Q7-G 41  76 80
1939年モデル "S-19R" 4バンド・スプレッド付 6K8-G 6K7-G 6Q7-G  41 76 80(年式により異なる)
このコンセプトを引き継いで1946年に登場したのが、有名な"S-38"シリーズです。

 今回は、通称"メーター"と呼ばれる特徴的なスプレッドダイヤルを持つ S-19R のオマージュ(仏:hommage=作品のモチーフを過去作品に求めること)。

ダイヤル(正面から)
 本物を見たことがありませんので、想像を膨らませて糸かけダイヤルを作りました。 メインバリコンにはアルプス B-27(12-430pF)、スプレッドバリコンには AM/FM ラジオ用の 小容量セクション(9-28pF)を使いました。 大きな透明な円盤がメインダイヤルの目盛り、小さい方がスプレッド目盛りで ダイヤル用のプーリを持っています。

 本物の Sky Buddy のバリコンは両方が一体となったスプレッド付バリコンですから、 スプレッドバリコンの回転方向が逆回転になっているはずです。 もしかしたらプーリの糸掛けをたすき掛けにして、順方向の回転にするための仕掛けだったのかもしれません。
ダイヤル(上から)
 糸掛けのドライブシャフトは VR を改造しました。 サブシャシを設けて一体構造としています。

 ダイヤルのバックラッシュを避けるために、バリコンのゴム足は使用しません。
ダイヤル(完成後)
 メイン・ダイヤルの減速比は 13:1 で文字盤が 180 度回転します。 メーターのように見えるのはスプレッド・ダイヤルで 減速比 8:1 で文字盤が 222度回転します。

 Bバンドでメイン・ダイヤルを 7.5MHz にセットすると、スプレッド・ダイヤルでちょうど 7.500MHz から 7.000MHz までスプレッドできます。 偶然です。

 メイン・ダイヤルの指針は、今回も透過光式としてみました。
コイルパック
 本物の S-19R は4バンドで1本のボビンに4バンドを巻いてあるモノコイル・タイプですが (Dバンドの OSCコイルだけを分割したモデルもある)、このタイプの自作はなかなか困難です。 バンド切替えスイッチ入手の都合から3バンドのコイルパックを自作しました。

左の写真は最終的な仕様。


部品
 電源トランスを除く主要部品。

 真空管の構成は本物と同じにしたかったのですが、手持ちのトランスの整流管用ヒーター巻線が 0.8A-5V-6.3V という仕様ですので、80 のフィラメント 5V-2A には不足します。

 そこで当時の自動車用ラジオに使われていた 6.3V-0.5A の 84/6Z4 を代役としました。 整流後に得られる電圧は、あまり違わないようです。
パネル
一部分未加工。 その他に裏ブタもあります。
シャシ
 今回もリード P-11 を使いました。 シルバーの塗装が綺麗です。

 採寸はすべて現物合わせで、確認のために何度も仮組みを繰り返しました。 最新の電動ドリルを使えば割合簡単に加工できます。
シャシ
 部品を配置してみると、少々混雑しています。 真空管の着脱がやりづらいのですが、機能本位です。 真空管のシールドケースは使用していません。
シャシ上部の配置
 パネルについている二つのフード状のものは、ダイヤル照明の反射板です。
シャシ内部(配線前)
 写真に写っているのは試作段階のコイルパック。 コイルパックの下側がアンテナコイルで、 左から、A(正体不明のジャンク、S-As 類似)、B(正体不明のジャンク、S-B 類似)、C(手巻き)。 この正体不明なジャンクコイルを使ってみたくて企画したコイルパックです。

 アルミのシールド版を隔てて上側が発振コイル。
Aバンド(No.88)、B(FCZ10S7)、C(手巻き:思うように発振せず)。
トリマは 30pF。スイッチはアルプス Y-300。
寸法 117mm x 107mm x 63mm  重量 170g
シャシ内部(配線後)
 Cバンドの発振コイルは、FCZ10S14 リンクコイル(4t)と同調コイルの半分(6t)に変更。 さらに、ブースターコイルとして FCZ103R5 と 50pF のコンデンサを追加。
 Cバンドの ANTコイルも、FCZ10S28 に変更。

 Aバンドの ANTコイルは No.88コイル、Bバンドの ANTコイルは FCZ10S7 で 代用することができると思います。


SKY BUDDY S-19R レプリカ 定格表
型式6球スーパーヘテロダイン
受信周波数A.530-1,605kHz (529-1,630kHz)
B.4-11MHz (3.811-11.033MHz)
C.8-20MHz (8.000-20.012MHz)
使用真空管6K8-G(Hytron)、6K7-G(Hytron)、 6Q7-G(NU)、41(RCA)、76(NU)、
84/6Z4(RCA)
感度5球スーパー程度
電気的出力1.5W (推定)
電源100VAC
消費電力-
スピーカーダイナミック 7cm
形状300 x 210 x 200H mm(シャシ 300 x 180 x 70H mm)
重量本体4.5kg
製作年月2009年4月製作
2009年10月Cバンドの発振コイルにブースターコイルを追加。
BFOコイルを変更。


SKY BUDDY S-19R レプリカ 回路図

調整と結果
 コイルパックの成否が重要なポイントです。
Aバンド:
 5mくらいのビニル線アンテナを取り付け、ローカル局を受信すると音がひずみ、 さらにトラッキングを念入りにするとコンバータ管が飽和して音が出なくなってしまいました。 過去の経験から、これはコンバータ管の局部発振が弱すぎるときに起きる現象であることは 判っていました。 古典管あるいは電池管のコンバータ管と反結合発振回路の 組み合わせでは、局部発振が弱いために感度が上がらない、またはバリコンの羽根が深く入った 発振周波数が低いところで発振停止といったトラブルもよくあります。

 原因は発振コイルとして使った No.88 コイルのリアクションコイルの巻き数が不足しているためです。 そこで電池管のときと同様、OSCコイルとして使っている No.88 コイルに 0.1mm ポリウレタン線を リアクションコイルとして 60回巻いて使用したところ、ローカル局もひずみ無く受信できるようになりました。 リアクションコイルは、元のコイルと 1mm程度離して巻きました。 コイル同士を重ねたりくっつけたりすると、周波数が高域まで伸びないことがあります。

 次にAバンドで 670kHz近くにダイヤルを合わせると、放送が受信できなくなるという現象が起きました。 正体不明の ANTコイルはいわゆるハイ・インピーダンス型なのですが、一次側のインダクタンスが 中途半端で、ビニル線アンテナを付けた状態で ANTコイルの一次側が 670kHzあたりに 同調しています(ナチュラル)。 そのため二次側も 670kHzあたりに同調すると、ANTコイルと6極部で突然発振が起こり、 3極部の発振が停止してしまいます。 対策としては、ANTコイルの一次側に 150pF のセラミックコンデンサをパラに入れてナチュラルを バンドの外に追い出しました。 このコンデンサによる感度の低下はなく、無事解決です。

Bバンド:
 ANTコイルと OSCコイルのインダクタンスの組み合わせがややミスマッチでした。 ANTコイルにも OSCコイル同様、FCZ10S7 を使って、周波数帯を少し下げた方が よかったと思います。 バンド内の低域では局部発振の勢いも弱く感度がやや低くなりますが、 ほかは高感度です。

Cバンド:
 バリコンの羽根が深く入った低域で発振停止という、予想どおりの 結果が待っていました。 多バンド受信機を製作する際には、バリコン-コイルパック-コンバータ管を接続する配線をいかに短く 仕上げ、バリコンのアースをしっかり取ることが重要な要素の一つです。 バリコンの真下にコイルパックの切替えスイッチを配置して、コイルパックに擦り寄るように コンバータ管を配置したのですが、スプレッドバリコンを増設した分だけ条件が厳しくなっています。

 別の要素としては発振部の gm(規格表に記載されている変換コンダクタンス gc とは別物) が大きいコンバータ管を使うことや、コイルに工夫を加えることですが、 やってみるとなかなか難しいのです。 結局 FCZ10S14 のリンクコイル(4t)と同調コイルの半分(6t)を使ってみたところ、 さらに低い周波数まで発振するようになりましたが、やはりバリコンの羽根が一番深く入ったところでは 発振が停止してしまいます。 一旦は、数本の新品 6K8-G の中から発振が停止しない球を選んで解決としましたが、 納得がいかないので結局コイルパックを作り直しました。

 Cバンドの発振コイルの一次側に FCZ10S3R5 と 50pFからなるブースターコイルを追加しました。 このコイルの直列共振周波数を発振周波数の下限(8.455MHz)よりもやや低い 7MHz 程度に 設定することで、本来弱くなりがちの低域での発振を補強します。 中波のハイインピーダンス・コイルの原理に似ており、 設定によっては低域に発振強度のピークを作ることもできます。 わが国ではなじみがない技術ですが、アメリカの電池管などを使った旧い通信機のハイバンドには 良く見かける方式で、簡単な割りに効果があります。 ANTコイルには FCZ10S28 を使いましたが、 バンド内の感度は一様でなかなか高感度です。

BFO:
 発振コイルとしてトランジスタラジオの黄色の IFT を使ってみましたが、発振しづらいため 黒色の IFT に変更しました。 それに伴い 76 のグリッドリーク抵抗を 240kΩから 47kΩに変更し、 BFO の注入も中間周波増幅管のコントロールグリッドから一般的な検波回路に 注入する方式に改めました。 実際の使い勝手はどちらも同じですが、レプリカを標榜しているため方式を揃えました。

電源トランス:
 回路図には 250V-45mA と記載してありますが、320V-250V-45mA-250V-320V というB巻線です。 50mA をやや超える電流を取り出していますが、発熱もなくまだ余裕がありそうです。

出力トランス:
 通常 41 の OPT には 7kΩ程度が選ばれることが多いのですが、手持ちの 3.3kΩの OPT を使いました。 出力管の負荷インピーダンスのとり方によって出力と歪が変化します。 7kΩはこれらの妥協点で選ばれた値ですが、ラジオではこの値の半分から2倍は 許容範囲といわれています。 A級増幅では、たとえ許容範囲を外れても出力管を痛めることはありません。

試聴:
 5球スーパー(BFO と合わせて6球)としてはA、B、Cバンド共に感度が良く、 使いやすい受信機です。
 今回はアース母線を使わずにニアバイアースとしてみました。 結果は上出来で、スピーカーで聞いても 100円ショップで買ったヘッドフォンで聞いても、 ハム音はまったく聞こえません。 低域が出ないスピーカーとヘッドフォンのなせる業かもしれません。

ダイヤル目盛のデータは次の通りです。
0 15.4 26.3 30.1 42.5 49.2 55.6 61.7 67.8 74.2 80.8 87.8 97.8 100
MHz 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 (20.01)

0 6.9 20.0 29.6 37.3 44.1 50.1 55.5 60.9 65.9 70.8 75.8 80.6 85.5 80.3 96.8 100
MHz (3.8) 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 (11.03)

0 17.1 31.5 41.5 50.0 57.1 63.9 70.2 76.3 82.2 88.2 94.3 100
kHz 529 600 700 800 900 1,000 1,100 1,200 1,300 1,400 1,500 1,600 (1,630)

最後に
 多くのファンを魅了した Hallicrafters も、1970年代に日本製アマチュア無線機の激しい攻勢を 受けて、残念ながら生産を終了しました。
(2009年10月11日Cバンドの発振コイルにブースターコイルを追加。BFOコイルを変更。)
(2009年5月4日ダイヤル・データ追加)
(2009年4月25日初稿)
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