4球AM/FMラジオ
(自作)

 

写真左-前方から 右-斜め上から

 mT管4本を使ったAM/FMラジオを作ってみました。 構成はFMコンバータに真空管テレビ末期のコンバータ用3極5極管 6GX7、 AMコンバータ兼FMのIF増幅用3極7極管 6AJ8、 AM/FM兼用IF増幅管 6BY7、 低周波増幅・出力管にはテレビの垂直発振増幅用に開発された 6AB8、の4球で AM検波、FM復調、整流には半導体ダイオードを使いました。

シャシとパネル(右)

シャシは裏ブタ付の塗装済み(リードP-11)

バリコンやIFTの端子部分はすべて小穴にしてみましたが、 特に不都合はありませんでした。

パネルは2mm厚のアルミ
スピーカーの穴は、いつものように安価な回転工具を使用しました。 短時間で綺麗な穴が開きますが、危険を伴います。
配線材を除く部品すべて

配線図に抵抗やコンデンサを一つずつ貼り付けておくと作業効率が上がり、 進捗状況も一目瞭然です。

部品は新品と未使用品を調達しました。
シャシ上部

当初の設計ではバリコンにB電圧がかかるため、安全のためとホコリよけの カバーとしてタッパーを使いました。 バリコンにはタップを立てて、3mmのビスでシャシに直に固定しました。 このカバーの中に、AM用バーアンテナも収めました。

mT管4本では、シャシ上はスカスカです。
シャシ後方

スピーカーは10cm。
シャシ内の部品配置
トランス類は端子がむき出しとなるため、全てシャシ内部に収納しました。

左下にある一番大きなトランスがヒータトランス。 Toyozumi HT62 6.3V-2A。
2番目がB電圧用のトランス。 東栄変成器の115V-70mA。 ブリッジ整流では70mA(AC表示)の約6割のDC電流が取り出せますので、適当な容量です。
一番小さいトランスが出力トランス。 JVCのL0631、本来はビルの館内放送用だそうで、 島田さんからの頂き物。 ありがとうございます。 出力トランスは電源トランスから離れた空き地に設置。

シャシ内部
 整流回路はいつもの通り電解コンデンサを3段にしてラグ上に組んで(左上)、 アースは初段管の脇に落としています。 ヒーターの配線も2本のビニル線をネジって、6GX7 の脇の卵ラグに1か所だけ アースします。 シャシに交流やリップルを含んだ電流を流さないことが、ハムを防止する第一歩です。

AM/FMラジオ 定格表
型式4球スーパーヘテロダイン
受信周波数AM 530-1,605kHz (525-1,670kHz)
FM 76-90MHz
使用真空管6GX7(松下)、6AJ8(Mullard)、 6BY7(UKの商社ブランド)、6AB8(松下)
感度ラジカセ程度
電気的出力0.5W (推定)
電源100VAC
消費電力-
スピーカーダイナミック 10cm
形状300 x 210 x 210H mm(シャシ 300 x 180 x 70H mm)
重量本体4.5kg
製作年月2010年5月


4球AM/FMラジオ 回路図

調整と結果

 AMラジオ
 AM/FM用2連バリコンのAMセクションの最大容量335pFですので、アンテナコイルには 並四コイル、発振コイルにはNo.88コイルあたりの組み合わせが適当だろうと思います。 しかしAM用とFM用の両方のアンテナ線を張るのは煩雑(はんざつ)ですから、 AMの並四コイルの代わりにゲルマラジオ用バーアンテナ・コイルPA−63Rを使ってみました。 ディジタル・ディップメーターを使ってコイルを発振させて計算でインダクタンスを推定してみました。 260μHといわれる並四コイルと比較してみると、PA−63R(黄線と黒線)は301μH、 PA−63R(緑線と黒線)は244μHくらいではないかと思います。 計算上トラッキングに問題がありそうなPA−63R(黄線と黒線)とNo.88コイルの組み合わせと、 もう一組PA−63R(緑線と黒線)とNo.88コイルの組み合わせの両方を試してみました。 結果はPA−63R(緑線と黒線)のほうがローカル局を受信したときの感度が高いので、 こちらを採用しました。

 回路図のように配線すれば、IF増幅管には次の表のすべての球を挿し替えて使用できます。 どの球でもローカル局が違和感なく受信できました。

9ピンmT IF増幅管一覧
品名種類gm
(マイクロ・モー)
Cp-g1
(pF)
内部抵抗
(Ω)
CO電圧
(V)
接続 備考
6KT6セミRCO5極管 18,0000.019160k-229PM フレーム・グリッド
6JC6ASCO5極管 16,0000.019180k-39PM フレーム・グリッド
6JD6SCO5極管 14,0000.019160k-4.59PM フレーム・グリッド
6EJ7
EF184
SCO5極管 15,0000.005380k(-3)9AQ フレーム・グリッド
6EH7
EF183
セミRCO5極管 12,5000.005500k(-12)9AQ フレーム・グリッド
6BX6
EF80
SCO5極管 7,4000.007500k(-4)9AQ -
6BY7
EF85
RCO5極管 6,0000.007600k-359AQ -
6DA6
EF89
RCO5極管 3,5000.002900k-20- 9AQ類似だが1ピンと6ピン
は内部シールド
(注)RCO-リモート・カットオフ、セミRCO-セミリモート・カットオフ、SCO-シャープ・カットオフ

 「そんなはずはない」と言われそうですが、実は 6BY76DA6 以外の球は すべて、無信号時には発振しています。 発振と言ってもピーとかギャーとかいう音を伴うわけではなく、 高いAVC電圧が発生するわけでもなく、ボリュームを最大にするとFMラジオのホワイト・ ノイズをちょっとやさしくしたようなサーッというノイズが発生しています。 またアンテナから455kHz付近の弱い信号を入れるとビート音が聞こえます。 6BY76DA6 ではボリュームを最大にしてもほぼ無音で、 比べてみれば違いは明らかです。 ローカル局受信時にはAVC電圧によってどの球もgmが大幅に低くなりますので、発振が止まり 通常の増幅となります。

 FMラジオ
 FMのIF増幅管としての 6AJ86BD6 相当の球で、 FMのIF増幅管としてはややゲインが低めです。 下記URLの規格はわが国で発表された規格と同じものです。
PHILIPS_6AJ8/ECH81(1954年)(Frank's Electron tube Pages)

 ところが1969年ころの規格表では、ちょっと見た限り性能が約2倍になっています。 これはグリッドリーク・バイアスで初速度電流を流したときの規格なのでしょうか。 カソード・バイアスで使えば昔の規格と一緒なのでしょうか。 私はこの規格表には懐疑的なので、今回はカソード・バイアスで組んでみました。 手許のテレフンケンの最後のころのハンドブックにも約2倍の方の規格が記載されています。 テレフンケンの球を数本挿し替えてみましたが特に違いはなさそうなのですが。
PHILIPS_6AJ8/ECH81(1969年)(Frank's Electron tube Pages)

 FM用IFTの調整は、レシオ検波回路にある2つの10kΩ抵抗の一方の 両端の電圧をディジタルテスターで読みました。 コンバータ管のコントロール・グリッドに10.7MHzの弱い信号を入れ、 テスターの示す絶対値が最大になるようにIFTのコアを調整しました。

 当初は真空管末期に登場した高性能な双4極管 6C9 を使い、 一方を高周波増幅に、他方を自励コンバータとする予定でした。 専用管ですので簡単にコンバータ回路ができ上がるだろうと組んでみたのですが、 甘かったようです。
 4極管による自励コンバータは元々綱渡りのような動作なのですが、 発振コイルの1次側、2次側、そして高周波増幅のプレートの同調回路が互いに深く影響し、 周波数の設定が思うようにできませんでした。 コイルの巻き方を勉強しないといけません。

写真上左 6C9(10ピン)、右 17AB9(10ピン)
写真下左から 6C9用自作ソケット、6C9、17AB9、17AB9用ソケット
 代わりに持ち出した球は真空管テレビ末期に登場した3極5極複合の高性能コンバータ管 6GX7 で、比較的使いやすい球です。 コイルは7ピンmT管を芯にして、1.6mmスズメッキ線を巻きつけて空芯コイルとしました。 ANTコイルはリンク2回巻、グリッド側3回巻、OSCコイルは8回巻、 タップはプレート側から3と3/4回のところ。 発振部と混合部は真空管の内部容量と配線のストレーで結合させています。 急遽予定変更のため、今回も高周波増幅はナシです。

 コンバータ回路は、まず3極部で65.3MHz-79.3MHzを発振するようにコイルを調整します。 発振コイルのトリマは省略しましたので、より高い周波数に調整したい場合は手でコイルを伸ばし、 逆の場合は縮めます。 バリコンを回して周波数の低いローカル局の周波数より10.7MHz低い周波数を発振するところで 電源を切り、ANTコイルの同調周波数をディップメーターで調べ、ANTコイルを調整します。 再びスイッチを入れローカル局が受信できるようにANTコイルをさらに微調整します。

 次に周波数の高いローカル局の周波数より10.7MHz低い周波数を発振するようにバリコンを 回し、その状態でANTコイルのトリマを回してローカル局が受信できるように微調整します。 そして再びバリコンを回して周波数の低いローカル局の周波数より10.7MHz低い周波数を 発振させたところで、ANTコイルを微妙に伸縮してローカル局がクリアに 受信できるようにします。 もう一度周波数の高いローカル局を受信しながらトリマを調整して終了です。 調整はそれほど難しくはありませんが、発振コイルとANTコイルの周波数が無秩序に ずれているとまったく音が出ません。

 ハム対策
 AM受信では、ローカル局のうち、一番周波数の高い局を受信したときに同調ハムが 発生しましたが、コンセントの極性を逆に差し替えたところハムは消えました。 これでAM放送ではボリュームを最大にしてもハムは聞こえなくなりました。

 次にFMに切替えたところ、ボリュームの加減に関係なくハムが発生しました。 動作を部分的に順に止めて調べたところ、1番目のFM用IFTのアース側と切替えスイッチを つなぐビニル線がハムを拾っていることが判りました。 この配線をシールド線に交換してハムは無くなりました。 ところがボリュームを最大にして89MHzあたりにダイヤルを合わせると、 レベルは低いのですが同調ハムのような音が聞こえます。 これはFMコンバータの局部発振電波を 6AB8 の3極部が拾ってしまったことが 原因のようです。 そこで発振回路の配線をシャシ寄りに低く配線し、6AB8 の3極部の グリッドに100pFのバイパス・コンデンサを入れてみたところ無事ハムが止まりました。

 ダイヤル
 糸かけダイヤルで減速比は4.25:1。 バリコンの周波数の伸びが、JISバリコンとは大きく異なるようです。 ダイヤル目盛りのカバーには100円ショップで購入した「はがき入れ」をつかいました。 AM受信時には赤のネオン管、FM受信時には緑のネオン管が点灯します。 少々子供じみたデザインだったかもしれません。

 6AB8 の出力が小さいこともあって大きな音は出せませんが、 高音の伸びの良さはFMラジオの面目躍如(めんもくやくじょ) といったところです。
(2010年5月23日初稿)
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