2バンドST管5球スーパー
(自作)


写真左-前方から 右-後方から

 The Hallicrafters Company(ハリクラフターズ)から発売された "Sky Buddy"(スカイ・バディ=空の仲間)シリーズ最初のモデル "5T"(1935年)の 古風な回路構成を真似てみました。


ラジオの構成と真空管
 "5T"は、3バンド5球スーパーで、 真空管はST管 6A7-6F7-75-42-80 という構成です。

 6A7 は周波数変換用 7極 ST管で、1933年に登場しました。 その後新しい形状の真空管が登場するたびに新形状の同等管が発表され、 メタル管の 6A8 (1935年)、 6A7 をオクタル・ベースに変更した 6A8-G(1936年)、 メタル管同等のガラス管 6A8-GT(1938年)、 ロクタル管 7B8(1939年)とファミリーを増やしながら、 5球スーパーから4バンド・ラジオに至るまで広く使われてきました。 往時の RCA "Receiving tube manual RC-14(1940年)" の 6A8 の項目には、長波帯 150kHz から短波帯 25MHz までの コイル・データが掲載されています。

 IF 増幅管に3極5極管の 6F7(1933年)を使用し、3極部を BFO としているところがその当時の市販ラジオには ない特別な機能です。

 検波・増幅管には 75(1933年)を使用します。 これ以前の RCA には検波用の2極管はありませんでした。 このころの増幅回路にはグリッドリーク・バイアスはまだ登場しません。

 整流管 80(ナス管 280 1927年)のフィラメント電流 2A を供給するには トランスのコアが小さいようなので、ヒーター電流 0.5A の傍熱整流管 84/6Z4(1933年)を使用します。

 左上の写真は主要パーツ、左の写真は細かいパーツ。 回路図にセロハンテープで貼り付けて、不足がないことを確認します。 電源平滑回路の電解コンデンサはスペースの都合で、ラグ板に立てて組みました。
2バンドコイル
 本家"5T"は3バンドですが、今回は20年ほど前に東京都内の古典ラジオ店で購入した、 中古のスター2バンドコイルを利用することにしました。

 ところがインダクタンスを測定してみると、
ANTコイル BC 226.9μH、SW 1.930μH
OSCコイル BC 101.75μH、SW 1.578μH
 *三和 LCR700(100kHz)で測定

となっており、おそらく ANTコイルはスターの 1950年ころの製品で、 OSCコイルはその後の 1952年ころの製品ではないかと推定します。 CLD規格準拠を境に規格が変わっています。 ANTコイルと OSCコイルのトリマの形状がそれぞれ異なりますので、同時期の製品でないことは明白です。 この組み合わせではラジオは成立しません。
そういうわけでコイルを改造します。
ANTコイル BC 205.8μH、SW 1.614μH(22.5mmφボビン)
1次側はそのままに、2次側の捲き数を減らすことにし、BCバンドは8回解きました。
SWバンドは 推定 0.5mmφのエナメル線が解いている途中で折れてしまいましたので、 手持ちの 0.8mmφのポリウレタン線を 8+1/2 回捲き、 ボビン内側に可変ループを設けてインダクタンスを調整しました。

OSCコイル BC 102.40μH、SW 1.265μH(19mmφボビン)
コイルをすべて解いて捲きなおしました。
BCバンドは 0.1mmφポリウレタン線を68回捲き、 リアクションコイルとして 1mm 離して 0.26mmφポリウレタン線40回捲きました。
SWバンドは 0.8mmφのポリウレタン線を 8+1/4 回、タップを出して続けて 7回捲き、 ボビン内側に可変ループを設けてインダクタンスを調整しました。

 コイルは高周波ワニスを塗って固めましたが、 0.8mmφのポリウレタン線では太すぎてきれいに捲けませんでした。 短波コイルは 0.5mmφのポリウレタン線を使用し、バンドごとにコイルを分けて作ったほうが賢明でしょう。

*SWコイルのインダクタンスは調整前の値です。
シャシ / パネル
 シャシには今回もリード P-11(300 x 180 x 70H mm)を使いました。 シルバーの塗装が綺麗で強度は十分です。 採寸はすべて現物合わせとしました。 裏ブタ付です。

 パネルは 1mm 厚のアルミ。 スピーカーはパネルに装着します。
上部カバー
 今回もパネルの補強を兼ねた上部カバーを付けます。 アルミニウム製L型アングルとアルミ板で強度を保つ構造としました。 アングルに 3mm ビス用のタップを立てて、シャシ、パネルとの着脱を容易にしました。 ユリヤねじを使えば素手でできます。

 ユリヤねじは便利だと思ったのですが、アルミ板表面にねじの頭の大きさの傷が付きますので 使用は見送ります。
部品の配置
 自作ラジオの場合、回路構成が決まったら最初にパネル面のデザインを決めます。 そしてデザインに従って部品の配置を決め、シャシ、パネルを加工します。

 チョーク取付用の適当な空き地が見つからず、悩んだ末シャシ左の側面に取り付けました。

 部品を取り付けたら、あとは配線・調整・ダイヤル目盛り作成となります。 この写真の状態で、ラジオ製作の 70% は終了しています。
メーカー不明の AM/FM 用バリコンを使いました。 12-430pF と記載があります。

バリコンの容量を実測しました。
左の写真の
上側 12.5-432pF
下側 12.3-435pF

中古バリコンにしては珍しく、2つのセクションの容量が良くそろっています。
IFT にはトリオの T-6 を使っています。

検波・増幅管 75 のグリッドキャップに行く配線はシールド線です。 検波段の IFT のベースにはシールド線を通す穴をあけ、IFT 内部を経由して配線しています。
ANTコイルは、この位置に配置すると調整が容易です。

トリマが天を向くようにシャシを立て、ANTコイルとシャシ内の OSCコイルを交互に調整します。
真空管にはシールド・ケースを使用しません。 6F7 には内部シールドがあるため、外側にシールド・ケース設けなくても発振の心配はありません。
真空管のグリッドキャップは、手許にあった銅板を加工した自作品です。

 配線はニアバイアースとしました。

 OSCコイルは取り付けた状態ではインダクタンスの調整はできませんので、 取付ビスを外して少し浮かした状態で調整します。 トリマの調整は微妙ですので、必ずコイルを取り付けた状態で行います。


2バンドST管5球スーパー 定格表
型式2バンド5球スーパーヘテロダイン
受信周波数Aバンド 530-1,605kHz(526-1639kHz)
Bバンド 6-18MHz(5.959-18.632MHz)
使用真空管6A7(NU)、6F7(マツダ 昭和19年5月製造)、 75(Sylvania 刻印)、
42(マツダ)、84/6Z4(Sylvania)
感度5球スーパー程度
電気的出力2W (推定)
電源100VAC
消費電力-
スピーカーダイナミック 10cm
形状300 x 195 x 200H mm(シャシ 300 x 180 x 70H mm)
重量本体4.3kg
製作年月2014年10月


2バンドST管5球スーパー 回路図

6A7 と調整
 6A7 は中波バンド用コンバータ管としてはよく働きますが、 短波バンド用(ここでは 6-18MHz)としてはいくつかの問題点があります。

 1.発振部の gm が低い
 6A7 の発振部の gm ( gc ではない)は1,150マイクロ・モーと低く、 その後に登場したコンバータ管 6K8 の3,000マイクロ・モー、6SA76W-C5 の4,500マイクロ・モー、6BE6 の7,250マイクロ・モーとは格段の差があります。 そのため短波バンドでの局部発振勢力は弱く、これが短波帯での感度の低い要因でもあるのですが、 特に問題なのはバリコンの羽根が深く入った状態(短波バンドの下限 6MHz 付近) で局部発振が停止する場合があることです。

 このラジオでは短波バンドの OSCコイルを本家"The Hallicrafters Company 5T"に倣って(ならって) 単巻コイルでタップにパディング・コンデンサを取り付けましたが、 やはり 6MHz 付近で局部発振が停止してしまいました。 そこで 6A7 のスクリーン・グリッドのバイパスコンデンサの接続先を OSCコイルとし、 中波バンドでは捨てている高周波信号をアノード・グリッドからの高周波信号と共に OSCコイルに流す方法を 試したところ、あっさり短波バンド全域で発振するようになりました。 今回は採用しませんでしたが、 発振グリッドの抵抗値を規格の許す上限( 6A7 では 100kΩ)まで大きくする、 ブースター・コイルを設けるといった方法も効果があります。 また 1950年ころ市販されていたスターの短波コイルの使用説明書では、 6SA76W-C5 のようなハートレー発振回路で使用する方法が推奨されていました。

 2.引き込み
 およそ10MHz 以上の短波バンドで強い電波を受信すると、局部発振周波数が影響を受けて変動します。 このラジオでは 5m 程度のビニル線アンテナを使用しますので、電波も弱く特に問題はなさそうです。 6A7 に限らず自作 FM ラジオのコンバータなどでも、局部発振が弱い場合には引き込み現象が現れ、 周波数カウンタで局部発振周波数を読みながら同調ダイヤルを動かしていくと 周波数がいきなり大きくジャンプすることがあります。

 それよりも 6A7 で問題なのは、 短波バンドの特に 16MHz 以上で ANTコイルと OSCコイルが互いに大きく影響しあうことです。 トラッキング調整中に ANTコイルのトリマを少し動かしただけで発振周波数が大きく動いてしまい、 調整はまるで鬼ごっこのようです。 このラジオの OSCコイルの上限周波数の調整中に、18.1MHz から 18.5MHz に変更しようとトリマを回したとき、 18.1MHz から 20.7MHz まで周波数がジャンプしてどうしても 18.5MHz に調整できないことがありました。 結局、OSCコイルの調整に先だって ANTコイルを調整しておくことで、 周波数がジャンプしないことがわかりました。 単純な調整も一筋縄(ひとすじなわ)ではいきません。

 3.AVC による発振周波数の変動
 短波バンドでは AVC 電圧の変動で 6A7 の発振周波数も大きく変動し、 フィージングなどの影響で同調がずれてしまう恐れがあります。 このラジオの短波バンドでは 6A7 に AVC 電圧をかけず、 中波バンドでは強電界でも歪まないように AVC 電圧をかけています。 また AVC(パネルの表示は AGC) をスイッチで OFF にすることもできます。

 4.スクリーン電圧の安定化
 6A7 のようにサプレッサー・グリッドを持たない球では AVC 電圧が深くかかると スクリーン電圧が大幅に上昇し、 本来プレートに流れるはずの電流の多くがスクリーン・グリッドに流れ異常な動作をする恐れがあります。 それを防ぐために必ずブリーダー抵抗を使用してスクリーン電圧の安定化を図ります。

球の挿し替え
 コンバータ管 6A76F7 は構造が全く異なりますが、 ピン接続を巧妙にそろえてあるため挿し替えても動作する例があります。 今回未使用のアメリカ製 6F7 を5本用意して 6A7 の代わりに挿し替えてテストしてみました。 結果は中波バンドでは放送がよく聞こえたのですが、 短波バンドではどの球を挿し替えても局部発振回路が全く発振しませんでした。 原因は 6F7 の3極部の gm が 500マイクロ・モーと極めて低いことで、 ラジオ黎明期(れいめいき)に使われた真空管 201A の 800マイクロ・モーにも及びません。

 4241 はピン接続が同一の ST型出力管ですが、4241 よりも ひとまわり大きなガラスの入れ物に納まっていることから、 41 に挿し替えると消費電流が少なくなる様なイメージがあります。 実際にはバイアス電圧の違いから、このラジオでは 42 のカソード電流は 26mA で、 41 を挿した場合 30mA となります。

ダイヤル
 ダイヤルは分度器のコピーをダイヤルに貼り付け、 中波バンドはBFO の 455kHz とのゼロ・ビートでダイヤルの角度を求めました。 短波バンドでは 14MHz 以上の周波数で偽物の信号と区別がつきにくいため、 局部発振コイルから離れた位置にディジタル・ディップメーターを置いて、 影響を極力避けながら発振周波数を読みました。

 ダイヤルの目盛りは定規を使った手書きで、ワープロで印刷した文字をハサミで切ってのりで貼りつけたものを 50% に縮小コピーし、透明な DVD の保護円盤の裏側にスプレーのりで貼りつけています。

 ダイヤル目盛のデータは次の通りです。

0 1.7 16.6 31.4 41.4 49.7 56.9 63.6 70.0 76.1 81.9 88.0 94.1 100
kHz (526) 530 600 700 800 900 1,000 1,100 1,200 1,300 1,400 1,500 1,600 (1,639)

0 1.1 11.1 19.2 25.8 31.4 36.4 40.6 44.4 48.1 51.4 54.7 58.1 61.1 65.9 66.7 69.4 72.2 75.0 77.8 80.6 83.3 86.1 89.4 92.8 94.4 100
MHz (5.959) 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5 12.0 12.5 13.0 13.5 14.0 14.5 15.0 15.5 16.0 16.5 17.0 17.5 18.0 (18.632)

同調ハム
 ローカル局 JOPB (639kHz)と JOPK (882kHz)受信時に同調ハムが発生しました。 これまでに作ったラジオでは AC100V ラインの片側にだけ同調ハム対策の 0.01μFのコンデンサを 接続することで問題なかったのですが、今回は ACコンセントのプラグの極性を変えてみてもだめです。 そこで、AC100V の反対の極にも 0.01μFのコンデンサを追加してみたところ、無事に同調ハムは消えました。 電源からの交流ハムは、ボリュームを最大にしてもスピーカーでは聞こえない程度に収まっています。

評価
 中間周波増幅管に 6F7 の 5極部(gm=1,100マイクロ・モー)を使っているため、 6D6 (gm=1,600マイクロ・モー)と比べて感度が かなり低いのではないかと危惧(きぐ)していたのですが、 中波バンドはこれまで作ったラジオで受信可能な放送局はたいてい聞こえます。 短波バンドは 10MHz あたりまでは色々な放送がよく聞こえますが、 それ以上の周波数の感度はもうひとつで、強い電波の放送がところどころで聞こえる以外は静かなものです。 混信は少なく中間周波増幅 1段としては選択度はかなり良いと思います。 もしかしたら感度がそれほどでもないために、余計な混信が聞こえないだけなのかもしれません。

 6F7 の 3極部による BFO は IF 増幅の 5極部と内部容量で結合されていますが、 7MHz のアマチュア無線局の強い電波(!!!)を復調するには BFO の発振が弱すぎて声がモゴモゴしたり歪んだりします。 そこで、1pF のコンデンサで BFO の信号を 5極部のコントロール・グリッドに加え、 BFO の信号を増幅する方法をとりました。 これは正解だったようで SSB の復調も中波放送局並に明瞭で、大きな音量で聞くことができます。 7MHz のアマチュア無線バンドの SSB での会話を 5分程度連続して聞いている限りでは、 局部発振も BFO も安定していて声の調子も変化しません。

 スプレッド・ダイヤルは 7MHz バンドで約 40kHz カバーし、BFO は 455kHz±3kHz を発振します。 スプレッド・ダイヤルと BFO の双方を調整することによって、 希望の信号の選択も容易で混信から逃(のが)れるポイントを探ることもでき使い勝手は上々です。 感度は低いながら 14MHz のアマチュア無線局もなんとか聞こえます。


写真左から、6A7(RCA)、Ut 6L7G6W-C5

 ラジオのセットメーカーのナナオラが、 5極管コンバータを使った中波専用の 5球スーパーを売り出すにあたって、 「無線と実験」誌 1948年 12月号(国会図書館収蔵) p.22 の記事の中で次のように記述しています。

「従来我が国のスーパーのコンバーターとしては五格子変換管 6A76W-C5 を 用いたセットが大部分であった。 しかし国産 6A7 等は品質不均等で不良品が多く、 その上単価も高く業者としては悩みの種であった」。

 近年では 6A7 が使われることは稀(まれ)ですが、悪い評判だけは今も語り継がれています。

 しかし第二次世界大戦前後のわが国とアメリカ合衆国とでは比較にならないほど国力の差があり、 1930年代のアメリカでは 6A7 とその形状違いのコンバータ管ファミリー (6A86A8-G6A8-GT7B8)は 一世を風靡(ふうび)しました。

 今回のラジオの製作を通じて、アメリカ製 6A7 は使用法をわきまえていれば、 短波バンドのコンバータ管としても十分実用になることが確認できました。


(2014年10月28日初稿)
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