3バンドmT管5球スーパー
(自作)



 6R-DHV2 を使った、3バンドmT管5球スーパーを作ってみました。


ラジオの構成と真空管

 高周波増幅、BFO 付3バンド5球スーパーで、真空管はいずれも9ピンmT管の 6DA6/EF89 - 6BA7 - 6R-DHV2 - 6BM8/ECL82 - 6V4/EZ80 という構成に、 ロクタル管のマジックアイ EM71A が加わります。 (左の写真は配線材を除いた部品のほぼすべて)


6DA6/EF89(1954年) ヨーロッパ版の 6BA6(1946年)とでもいうべき球で、 性能もよく似ています。 高周波増幅に使用します。

6BA7(1948年) AM/FM共用コンバータ用7極管で、メタル管 6SB7-Y(1946年)の同等管です。 AM/FM コンバータ管としては主流にはなれませんでしたが、 アメリカのコリンズ社製通信機にミキサー管として使用されたことで有名です。 今回は自励コンバータとして使用します。
6R-DHV2(1957年) 中間周波増幅管の 6BD6(1946年)と検波・増幅管の 6AV6(1947年) を1本にまとめたような複合管で、高周波増幅付スーパーを5球でまとめることできます。
次の写真の記事【NEC 真空管技術データー NEC 9】を参照。

6BM8/ECL82(1956年) 白黒テレビの垂直発振・増幅管としてヨーロッパで開発されました。 オーディオ用としてもおなじみです。 今回電圧増幅は 6R-DHV2 の3極部に譲り、6BM8/ECL82 の3極部は BFO、 5極部は電力増幅として使用します。

6V4/EZ80(1952年) ヨーロッパ版 6X4(1946年)といったところで、 ヒーターの規格は同じですが取り出せる電流は7ピン 6X4 の 70mA (80mA とする規格表もある) に対して9ピン 6V4/EZ80 は 90mA と大きくなっています。 リムロック管 EZ40(1948年)は同等管です。

EM71A(1953年) ロクタル管マジックアイで発光部が120度展開します。 ガラス管直径は 29mm で 6E5(1935年)のT管とほぼ同じです。 主にヨーロッパのテープレコーダーの音声レベル・インジケータとして使われました。 EM71(1950年)との違いは不明。

【NEC 真空管技術データー NEC 9】より引用

ラジオ ハイファイ超複合管 6R−DHV2 新発売
球の数を少なくして、より高性能高忠実度をねらうため、複合管が強く要求されていました。

今回 NEC から 6R-DHV2 の名称の下に 6BD66AV6 を一緒にした性能の ものが発売され広くセットメーカーに使用されつつあります。 更に複合管だという丈でなく、ハイファイ用として 6AV6 で達せられなかったNFB が可能となり、 一段と高性能になっていますので、今後益々需要は増大するものと思われます。

特長
a 6BD66AV6 の性能を一本の球に入れてある。
b NFB(負帰還)をかけるため、2極部は、5極部とカソードを共通にしてある。 従って3極部のカソードに NFB が自由にかけられる。
c 2極部陽極は上部口金に出ていて、配置によりセットが不安定になるおそれは全くない。
d ハムに対して設計面からも検査面からも充分な考慮が払われている。
e 5極部のプレートとグリッド(G1)及び5極部と3極部との間は充分にシールドされているので、 外部シールドケースを使用しなくても充分安定である。
ピン2と6の間  Cg1-p 0.006pF(max)
ピン2とCapの間 Cg1-D 0.002pF(max)

注 2極部と5極部はカソードが共通なので、普通5極部は零バイアスで使用する。


*HP作者コメント
 6R-DHV2 のように検波用2極部一組と中間周波増幅用5極部が カソードを共用している真空管にカソード抵抗を入れると、 カソード電圧より小さな信号では二極部のプレート電流が流れない(検波されない)ため 感度の低いラジオになってしまいます。 この構造の球では音声検波、AVC、カソード・バイアスの3つを同時に満たすことはできないのです。

  NEC が想定している零バイアス(グリッドリーク・バイアス)は 標準的な5球スーパーのIF増幅回路からカソード抵抗を省略しただけのもので、 AVC の負電圧が 1.5V 以上のときには普通のラジオと何ら変わりません。 無信号時には5極部のグリッド電流が流れて、AVC 回路に入った高抵抗に 0.7V 程度の負電圧が発生します。 この程度のバイアス電圧ではプレート電流が最大定格を超えてしまう恐れがあるため、 スクリーン電圧を若干低めに設定してプレート電流を規格内に収めます。

 こういった使い方はヨーロッパではそれほど珍しくはなく、 このラジオで使っている 6DA6/EF89 の規格表にも グリッドリーク・バイアスの動作例が示されています。

 しかしグリッドリーク・バイアスは5極部のグリッド電流が流れると同時に 入力インピーダンスが下がり、ひいては感度も下がってしまうため、 今回製作したラジオのように AVC を OFF にするモードを設けた回路には不適当なのです。 そこで今回は半固定バイアスと AVC を併用する方式を採用してみました。

シャシの加工
 真空管6本分の丸穴、IFT 3本分の角穴が開いているのがわかりますか?

 シャシに付けたフェルトペンのマークを勘違いしための不始末でした。

 でも大丈夫。
上部カバー
 これがあると、ボリュームを上げたときのパネルのビビりやハウリングが起きづらくなります。 また、シャシを裏返した配線や調整がやりやすくなります。
部品の配置
 高周波増幅付の3バンドラジオともなると、 バリコン、真空管、コイル、バンド切換スイッチの配置がなかなか難しいところで、 高い周波数の短波の配線を最優先とします。 これらの部品だけで、シャシの面積の半分を占拠しています。

 電源トランスとアウトプット・トランスの取り付け位置がやや近く、 ハムを拾わないか心配だったのですが大丈夫でした。
 6R-DHV2 の大きさに合わせて、IFT はトリオの T-25 を使います。 6R-DHV2 の検波用2極部のプレートは球のてっぺんのキャップに接続されていますので、 IFT の上面に配線用の2.5mmの穴をあけました。

 バリコンはアルプスの B-37。 コイルはトリオのRF付3バンドコイル 3B-RF
 いつものスパゲティ配線。
 マジックアイの取付金具とソケットのカバーは自作。
 上品な設計のメーカー製ラジオでは 6AV66Z-DH3A にシールドケースをかぶせてあります。 これは外来雑音などの影響を軽減するためで、IF 増幅の発振などとは無関係です。

 6R-DHV2 を使ったメーカー製のラジオにもシールドケースは使われていますが、 このラジオではせっかくの 6R-DHV2 の姿が見えるようにシールドケースは使いません。 テレビのダンパー管に似た武骨な外観を持つ球ですね。



3バンドmT管5球スーパー 定格表
型式3バンド5球スーパーヘテロダイン
受信周波数Asバンド 550-1,600kHz(544-1,627kHz)
Bバンド 3.5-10MHz(3.374-10.640MHz)
Dバンド 8-23MHz(7.343-23.278MHz)
使用真空管6DA6/EF89(Telefunken)、6BA7(RCA)、 6R-DHV2(NEC)、
6BM8 Hi-Fi(東芝)、6V4/EZ80(Siemens)、 EM71A(Lorenz:ドイツ)
感度6球RF付スーパー程度
電気的出力2W (推定)
電源100VAC
消費電力-
スピーカーダイナミック 7cm
形状300 x 195 x 200H mm(シャシ 300 x 180 x 70H mm)
重量本体4.3kg
製作年月2017年8月


3バンドmT管5球スーパー 回路図

3バンドコイル 3B-RF の調整

 3バンドコイルは配線の間違いを起こしやすいため、 バンドごとに色分けしたリード線をあらかじめコイルにはんだ付けしておき、 接続先を示すタグを1本ずつ取り付けておきます。 バンド切換のロータリー・スイッチも、 どの位置に何の配線を接続するかあらかじめ決めて手許の回路図にメモしておけば 間違いを防ぐことが出来ます。

 短波2バンドのコイルは各ボビンに2か所ずつの合計6か所。 それぞれボビン内部の可変ループを微妙に動かしてインダクタンスを微調整します。 このコイル単体を、簡易測定器を使ってインダクタンスの値を調整してみましたが、 なかなか思うような値にはなりません。(回路図に記載した値はこのときのもの)

 RFコイルとOSCコイルはインダクタンス調整のため、 取付ビスを外してコイル本体を浮かせた状態で可変ループを調整する必要があるため、 コイルの配置や配線は十分考慮しておく必要があります。

 各ボビンのコイルは3バンド分捲いてありますが、 バリコンと接続していないコイルは一つ上のバンド内のどこかの周波数に同調しているため、 吸収現象から逃れるためにスイッチ経由でグランドに落とします。

 かつてはこの目的に使用する専用のロータリースイッチ(アルプス S-302 1951年発売 など)がありました。 選択されたバンドよりも低い周波数バンドのコイルをすべてグランドに落とすショート付 (またはショートリング付、ショートバー付)と称するもので、コイルパックにも使用されています。 今回使用したアルプス Y-300 はショート付ではありませんので工夫して使っています。 残念ながら 2009年ころ Y-300 も生産終了となりました。


Aバンド
 コイルの調整は低い周波数のバンドから行います。 Aバンド(実際にはAsバンド)のコイルはインダクタンス固定ですので調整できません。 トラッキング周波数はローカル放送局、NHK第2(639kHz)と静岡放送(1,404kHz)を利用しました。 当地はとにかく超強電界ですので、歪のないクリアな音で受信することが一番の課題となります。 そのためAバンドだけはRF増幅、周波数変換、IF増幅の3段にわたって AVC 電圧をかけています。

 Aバンドのパディング・コンデンサとしては一般的には 600pFの半固定コンデンサを使用しますが、 代替品として 200pFのマイカコンデンサ2個と公称 50pF(84pF-4pF可変) のセラミックトリマを並列に接続して使用してみました。 実際に調整してみるとこれでは容量不足で、さらに 47pFのマイカコンデンサを追加して 実測 482.7pFで調整が取れました。

 AバンドのANTコイルのインダクタンスは実測で 188.19μH、RFコイルは 194.63μHです。 RFコイルをシャシ内に配置するとインダクタンスは 1% 程度減少しますが、 それでもちょっとバラつきが大きいような気がします。 とはいえ実際のトラッキング調整での不具合は特に感じませんでした。

 高周波増幅付ラジオのAバンドで、ANTコイルとRFコイルのインダクタンスの値がきちんとそろっていると、 低い周波数の放送局の受信ではスピーカから出てくる音の高音がカットされる傾向があります。 それを避けるためにコイルと直列に抵抗を入れてコイルのQを下げることもありますが、 もしかしたらメーカーが意図してコイルのインダクタンスをずらしているのかもしれません。

Bバンド
 OSCコイルはあらかじめバンドの両端の周波数を決めて、その周波数に合わせれば調整は完了です。 トラッキング周波数は 4MHzと 7MHzとし、 4MHzでANTコイルとRFコイルの可変ループを合わせ、 7MHzでトリマ・コンデンサを調整して最大感度にします。

 我が国の2バンドラジオ全盛のころの 6BE612BE6 を使ったラジオでも 短波帯では AVC を外してありましたので、ここではそれに倣う(ならう)ことにします。 余談ですが周波数変換管 6W-C5 を短波で使う場合、AVC は禁忌(きんき)となっています。 これは短波バンドでは AVC 回路にグリッド電流が流れやすく、そのために感度の低下を招くからです。 なお初期に生産された 6W-C5 にはブロッキング現象の問題があり、 中波でも AVC を避ける場合があります。

Dバンド
 Bバンド同様にDバンドも調整します。 しかしDバンドコイルをビニル線で配線をすると、インダクタンスは10%以上も大きな値になってしまい、 結局希望通りの周波数には追い込めませんでした。

 OSCコイルはあらかじめバンドの両端の周波数を決めて、その周波数に合わせれば調整は完了です。 トラッキング周波数は 10MHzと 21MHzとし、 10MHzでANTコイルとRFコイルの可変ループを合わせ、 21MHzでトリマ・コンデンサを調整して最大感度にします。 21MHzともなるとトリマ・コンデンサをほんの少し動かしただけで同調周波数が 1MHz以上も変化してしまいます。 調整は難しくはありませんがかなり微妙で、感度に大きく影響します。 上側ヘテロダインのつもりで調整したのに、下側ヘテロダインになっていたということもよくあることです。

 たとえばDバンドで 10MHzの放送を受信して、さらに高い周波数を受信すべく同調ダイヤルを回していくと、 バンドの中央付近では何も放送が聞こえなくなって、やがて「プツッ」という音がし、 さらにダイヤルを回すとまた放送が聞こえてくる、といった状態になることがあります。 10MHz付近では上側ヘテロダインだったのに、21MHz付近では下側ヘテロダインに入れ替わってしまったわけです。


RF増幅管の互換
 回路図のように配線すれば、RF増幅管には次の表のすべての球を挿し替えて使用できます。 以前作った4球AM/FMラジオでIF増幅管を 挿し替えて試したときには gm の高い球では発振してしまったのですが、 今回はリモート・カットオフ、セミリモート・カットオフの球ならば、 どの球に挿し替えてもでもA、B、Dバンドいずれも違和感なく受信できました。 しかしシャープ・カットオフの球に AVC 電圧をかけると歪がひどく実用になりません。

 一覧表にあるRF増幅管個々の gm の値は大きく異なりますが、 総合的な感度の差はそれほど感じませんでした。 今回はトランスのヒーター捲線の容量に余裕がないため、 当初の予定通り 6DA6/EF89 を使うことにします。 この球だけヒーター電流が200mAで、他は300mAなのです。

9ピンmT RF増幅管一覧
品名種類gm
(マイクロ・モー)
Cp-g1
(pF)
内部抵抗
(Ω)
CO電圧
(V)
接続 備考
6KT6セミRCO5極管 18,0000.019160k-229PM フレーム・グリッド
6JC6ASCO5極管 16,0000.019180k-39PM フレーム・グリッド
6JD6SCO5極管 14,0000.019160k-4.59PM フレーム・グリッド
6EJ7
EF184
SCO5極管 15,0000.005380k(-3)9AQ フレーム・グリッド
6EH7
EF183
セミRCO5極管 12,5000.005500k(-12)9AQ フレーム・グリッド
6BX6
EF80
SCO5極管 7,4000.007500k(-4)9AQ -
6BY7
EF85
RCO5極管 6,0000.007600k-359AQ -
6DA6
EF89
RCO5極管 3,5000.002900k-20- 9AQ類似だが1ピンと6ピン
は内部シールド
(注)RCO-リモート・カットオフ、セミRCO-セミリモート・カットオフ、SCO-シャープ・カットオフ


整流管の互換
 6V4/EZ80 の代わりに 6CA4/EZ81 を使うことが出来ます。 6CA4/EZ81 に挿し替えると整流管のカソード電圧は約10V高くなりますが、 6DA6/EF896R-DHV2 の5極部のスクリーン電圧は 約2V高くなる程度ですから何ら問題ありません。


マジックアイ EM71A
 EM71A が手に入ったので使ってみました。 発光部のカソードが偏心していて、6E5 よりも表示部が広くなっています。

 マジックアイの発光部の影が全閉するために必要なグリッドの負電圧は、 B電圧が高いほど大きな値となります。 このラジオでのB電圧においては EM71A は-16Vくらい、おなじみの 6E5 では-7Vくらいです。 これまでの経験から、AVC電圧は5球スーパーで-10Vくらい、 6球スーパーで-16Vくらいが限界のようですから、EM71A を使ったのでは影の閉じ方が不十分です。
 そこでマジックアイのグリッド電圧を2倍にする方法を考案しました。 検波回路の負荷抵抗を固定抵抗として回路図のP3から分圧した電圧をAVC電圧として供給します。 P2からマジックアイのグリッド電圧を供給すれば-30Vくらいの負電圧を得ることが出来ます。 こうすれば EM71A も余裕で使用できます。

 Aバンドの同調ではマジックアイよりも音声を頼りに操作をした方がやりやすいのですが、 Bバンド、Dバンドの同調のときにはけっこう役に立ちます。
ダイヤル
 ダイヤルの目盛りは定規を使った手書きで、ワープロで印刷した文字をハサミで切ってのりで貼りつけたものを 50% に縮小コピーし、中古の DVD にスプレーのりで貼りつけています。

 大雑把(おおざっぱ)な目盛りですが、較正(こうせい)してありますので正確です。

 ダイヤル目盛のデータは次の通りです。
0 11.8 26.9 37.8 46.7 54.6 61.7 68.3 75.0 81.0 86.9 93.6 100
kHz (544) 600 700 800 900 1,000 1,100 1,200 1,300 1,400 1,500 1,600 (1,627)

0 3.6 18.3 28.9 37.2 45.7 50.6 56.3 61.7 66.7 71.7 76.3 81.0 85.2 89.4 94.4 100
MHz (3.374) 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 6.0 6.5 7.0 7.5 8.0 8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 (10.640)

0 9.2 21.1 30.2 37.4 43.9 49.7 54.9 59.9 64.7 69.1 73.4 77.8 81.3 85.9 89.7 94.3 100
MHz (7.343) 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 (23.278)

評価
 Aバンド、Bバンドでしたら一般の5球スーパーでも十分な性能を発揮しますが、 さらにRF増幅が付いたことによりS/Nの向上とイメージ混信の減少を実感します。 しかし家電の発するノイズにはお手上げですから、 受信する前に家電のスイッチは一通り消しておく必要があります。

 Dバンドの性能なんて大したことはないだろうと高を括って(たかをくくって)いたのですが、 実際にはBバンドと同じくらいの感度で海外放送が受信できます。 電波状況によって大きく左右されますが、14MHz や 21MHzのアマチュア無線の SSB も聞こえます。 スプレッド・ダイヤルとBFOピッチを操作すれば選局もそれほど難しくありません。

 BFOは今回もIF増幅管のコントロール・グリッドに注入する方式としています。 強い電波でも IFゲインを絞る必要がなく、 アマチュア無線の SSB の受信では歪やモガモガもなく会話は明瞭に聞こえます。 IF増幅1段にしては、選択度も良好です。

 今回 10cm径のスピーカーの手持ちがなかったため、7cm径のスピーカーを使ってみました。 予想通り径の小さい分だけ、低音の再生は劣ります。 これが今回一番の反省点です。


(2017年8月5日初稿)
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