ナス管5球スーパー
(自作)


写真左-前方から 右-斜め上から


 ナスのようなひょうきんな形をした真空管、 通称ナス管は真空管黎明期(れいめいき)の品種で、 アメリカでは1920年ころから1931年ころまで生産されました。 この時代のラジオは大型のキャビネットに収まり、真空管を7本から10本も使った TRFラジオ(ストレート・ラジオ)が幅を利かせていました。 まだスーパーは少数派でしたが、さらに高級なラジオでした。

 そんなナス管でラジオを作ってみたいと前々から思っていましたが、 5球スーパーがスタンダードになる以前の真空管ですから、 おなじみの7極管や双2極3極管などの品種がありません。 しかも中古品といえども、驚くほど高価で取引されています。 どうしたものかと、あれこれ考えをめぐらせていたのですが、 最小構成で実用になる5球スーパーを作ってみることにしました。

 構成は、スクリーン・グリッド管(4極管)224 の自励コンバータに スーパー・コントロール管(リモート・カットオフ管)235 の中間周波増幅、 3極管 227 のプレート検波に1:3の段間トランスを組み合わせて 直熱3極出力管 245 をドライブします。 直熱両波整流管 280 と合計5球で、 245 シングルのアンプを意識した設計になっています。

製作

配線前のシャシ上面

300x180x70H(mm)のシャシを使いましたが、やや狭すぎたようです。 ST管のときより、球と球の間隔が必要です。 チョークと大型の出力トランスを用意したのですが、 今回は使用を見送りました。

電源トランス(SEL)、バリコン(アルプスB23)、IFT(松下12511、12512)、 いずれも中古部品の再使用です。

写真ではコイルはスターのハイ・インピーダンス型5球スーパーコイル が付いています。

配線前のシャシ内部

ヒーター・トランス、段間トランス、出力トランス、 を詰め込んでしまいました。 段間トランスがハムを拾わないかどうか心配でしたが、杞憂(きゆう)に終わりました。

音量(利得)調整用ボリュームの焼けを防ぐために、 10kΩ 2.5W巻線型を使っています。

スイッチ付ボリュームの操作感覚で使えるように、 ボリュームとマイクロ・スイッチを連動させています。

仕組はボリュームの軸に延長アダプターを取り付け、左に回しきったところで アダプターの締め付けねじの頭がマイクロ・スイッチを押して電源をOFFにします。

糸掛けダイヤルはちょっとした仕掛けをしてバリコンとの位置をずらしています。

ドライブ・シャフトがかなり細いため減速比は20:1になりました。 6:1くらいの方が使いやすいかも。

滑車には網戸の戸車を使ってみましたが、ガタが少なくなかなか優れものです。

ダイヤル

ボール紙をプーリと同じ径に切り抜き、 赤いペンで目盛の指示用のラインを引き、テープで貼ってボロ隠しをします。

アクリル板の表面に発振器を使って100kHzきざみのシルシを付け、 裏から数字を逆に印刷したシールを貼って文字盤のでき上がり。
コイルは、フリーソフト 「ソレノイド形空芯コイルの計算」を頼りに自作しました。 誤差は思ったより小さく大変役に立ちます。 巻き終えたコイルはLCメーターでインダクタンスを測定し、お手本のコイルと 同じ値になるように微調整しました。

アンテナ・コイルは外観を気にして、25mm径のベーク・ボビンに 0.1mm径のポリウレタン線を1次側15回、2次側は84回巻きました。 (写真左 約210μH)

発振コイルは29mm径のボール紙でできたテープの芯に 0.1mm径のポリウレタン線をプレート側48回、カソード側は22回巻きました。 (写真右 約110μH)

巻き終わったコイルは、高周波ワニスで固めました。

配線が終了した状態。

赤い部品が抵抗、黒い部品がオイル・コンデンサです。
ナス管5球スーパー定格表
型式5球スーパー
受信周波数535kHz-1,650kHz
使用真空管224235227245280
感度ST管5球スーパー程度
電気的出力1.6W (目標値)
電源100VAC
消費電力-
スピーカー10cm ダイナミック(外付)
形状300x200x200H mm
重量本体4.1kg、スピーカー0.97kg
製作年月2005年1月



ナス管5球スーパー 回路図
各部の電圧・電流はボリューム最小のときと最大のときの値

調整
 4極管 224 を使った自励コンバータをいかにまとめ上げるかが、 このラジオの成否を決めるポイントです。 回路は一種のプレート検波でプレート同調回路の発振電圧の一部を カソードに戻し、その電圧がコントロール・グリッドに加わって発振が起こります。 カソードに発振電圧を返すのはアンテナ・コイルとの干渉を避けるためで、 この回路は比較的発振が容易で感度が良いといわれています。

 ところが一筋縄でいかないのがこの自励コンバータで、回路云々より 真空管や発振コイルの素性に依存し、真空管や発振コイルを交換すると それまでと全く違った様相を呈するのです。 ピーピーギャーギャー音が出たり、音が滅茶苦茶に歪んだり、 発振が止まったり、アンテナ・コイルの方で発振が始まったりと、 結局3日間もこの回路のご機嫌を伺った末に、ようやくバンド全体で 使い物になるようになりました。 自励コンバータを使ったラジオも4作目ですが、ノウハウがよくわかりません。

 224235 は4極管ですから プレート電圧がスクリーン電圧よりも十分に高くないと、 プレートに流れるはずの電流がスクリーンに流れて正常な動作をしなくなってしまいます。 そのためにバイアス電圧の変化に対してもスクリーン電圧を常に90V以下に保ち、 プレート電圧はスクリーン電圧の2倍以上になるような設計が必要です。 このラジオではスクリーン電圧の安定化のために常にブリーダー電流を流しています。 こういった煩雑(はんざつ)な用法が嫌われ、 高周波増幅用4極管は使われなくなってしまいました。

試聴
 スイッチを入れた瞬間、ブーンというハム音とともに 224227 の ヒーターの明かりがまぶしく点ります。 ハム音は最初の数秒だけで消えてしまい、 しばらくするとメリハリのある音で放送が聞こえてきます。 思わずひとりほくそ笑んでしまいます。 245 は同じ直熱3極管でも並四12A とは音質、音量ともに格が違います。

 感度、選択度はST管スーパーと同程度で、 ローカル局の受信にはアンテナは不要です。 5mほどのビニル線アンテナをつなげれば、 当地静岡でも関東のニッポン放送が明瞭に受信できます。 キャビネットはありませんが、 ナス管を眺めながらラジオ放送を聴くのも悪くないですね。


真空管は前列左から 280224、後列左から 245227235
(2005年1月27日初稿)
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