先人たちの知恵
5極管コンバータ


 ラジオ用の7極コンバータ管(Pentagrid Converter)の歴史は、 1933年のアメリカの 2A7、6A7 に始まります。
 これは、局部発振用の3極管と周波数混合用の4極管を1つにまとめてしまったような構造で、 2本必要だった真空管を1本で済ますことができる画期的な開発でした。 その後、2A7、6A7 の短波帯での欠点(後述)を改良した 6SA7 が1939年に登場し、 1945年に 6SA7 をmT管に衣替えした決定版、6BE6 が開発されます。 mT管を作る技術と資金のなかった戦後のわが国のメーカーは、1948年に6SA7-GTを ST管に焼きなおした日本独自の 6W-C5 を登場させ、当座をしのぎます。
 その一方でコンバータ管 2A7、6A7 登場前には、アメリカのラジオのセット・メーカーは 局部発振用の3極管と周波数混合用の5極管の2本で周波数変換を行ったり、 特異な回路を用いて5極管1本で周波数変換をさせる、 いわゆる「5極管コンバータ」(自励コンバータ = Self-Oscillating Mixer) を採用したころがありました。

 戦後のわが国でも国産 6A7 は品質不均等で故障が多く高価なため、 できれば高一用の真空管 6C66D6 をそのまま流用したい、 といった事情から一部のセット・メーカーは5極管コンバータを採用しました。 しかし、5極管コンバータは球ごとのバラツキも大きく発振が弱くても強すぎても 感度が落ちるため発振強度を調整しなくてはならず、苦労が多いわりに 6W-C5 に比べて感度が低く、しかもコンバータ管にAVCが掛けられない、 短波帯で使用できない、といった欠点から最終的には 6W-C5 に取って代わられます。

 興味深いので、以下に資料を示します。 (短波とスーパーの組立/奥沢清吉/誠文堂新光社/1952年参照:国会図書館収蔵)
(第1図は都合により欠番)
 第2図、第3図は 6SA7-GT6BE66W-C5 の標準的な回路です。

*HP作者コメント
 6SA7-GT6W-C5 は20MHzまで、 6BE6 は70MHzくらいまで十分実用になります。 アメリカでは1947年ころのFMラジオにも使用されました。
 細かいことですが、6SA76SA7-GT とピン接続が異なり、第5グリッドは メタルのボディ・シェルとともにアースします。

 第4図は、2A7、6A7 を使った回路です。 構造上の問題で短波帯では発振しづらく、発振電圧が下がるために感度も低く、 AVC電圧により局発の周波数がずれてしまう欠点がありますが、 BCバンドでは良好に働きます。

 第5図は、2A7、6A76W-C5 のように使う回路で、 アマチュア的な使用法ですが20MHzくらいまでは容易に発振します。

*HP作者コメント
 2A7、6A7 を使用する場合でも、短波帯ではこの方式を採用したものがありました。 デリカの受信機やスターのコイルはその一例で、デリカの回路ではカソードとコイルの間にバイアス抵抗(250オーム)と バイパス・コンデンサ(0.01uF)を入れています。
 この回路の研究から、6SA7 が開発されました。

 第6図から第13図までは一般に高周波増幅や検波に使用する5極真空管を コンバータに使用した回路です。 使用する5極真空管はどんな名前のものでもかまいません。

*HP作者コメント
 6C6、6D6、77、78、6K7、6J7 といった球が使用されました。 これらの図の回路の抵抗値は6C677、6J7 も同等)を想定しているようです。
 また、5極管コンバータは微妙なバランスで動作していますので、 動作点を変化させないように、AVCはかけないのが普通です。

 第6図はスクリーンとプレートで発振させるようにした回路。 第7図はサプレッサーとプレートで発振させるようにした回路で、 いずれもグリッド側に同調回路を設けてあります。両回路とも昔はよく使用されましたが、 発振がなかなか起きにくく、プレートコイルL4を少し多い目に巻かなければだめです。

*HP作者コメント
 第7図の回路はナナオラのNH-5088型5球スーパーも採用しています。 真空管は 6D6 で、カソード抵抗の値1k,10kはそれぞれ500,3kとしています。

 第8図はスクリーンとサプレッサーを100pFのチタコンで接続して同位相にし、 これとプレートで発振させるようにした回路で発振が容易に起きますから市販の 6A7 用の 発振コイルで発振しますが、専用管を使ったコンバータにくらべ感度が低いです。 しかし第6図、第7図のものにくらべるとよほどよくなります。

 第9図は、コントロール・グリッドとプレートで発振させるようにした回路です。 この回路は割合感度がよいのですが発振が強く起こりすぎるために 感度が悪くなってしまう場合があります。 したがって発振強度を低下するためL4の巻数をなるべく少なくするか、 L3と並列に50-200kΩくらいの抵抗を接続するなど方法を考えねばなりません。 なお、この図はカソードとプレートで発振しているような感じですが、 カソードコイルの電圧はコントロール・グリッドに加わって発振を起こすのです。
 第10図は同調回路をカソード側に入れた場合で、第9図と同じ特長ですが、 発振がやや起こりにくくなります。
 第11図は第9図と同じですが、コントロール・グリッドにバイアスを与えるのに 普通の発振回路と同じようなグリッド抵抗を使っております。 いっそう発振が容易ですから、発振が強すぎないように注意してください。

*HP作者コメント
 第10図までの5極管コンバータはプレート検波型ですが、第11図の回路はグリッド検波型です。 ミキサー回路もこの2つに分かれます。
 高一を改造したスーパー用コイル LA-4 や4球ショート・スーパー用コイル K-4 型というキットがTRIOから 発売されていました。 「6C6 をコンバーターに使用する場合は 6W-C5 より約6db利得は低下しますが、 5球スーパーでは充分実用になります。」(TRIOLA-4 の資料より)

 第12図はコントロール・グリッドとプレートで発振を行わせ、出力をスクリーン から取り出すようにした回路です。 第9図などより発振が安定ですが感度が低くなります。

 第13図はコントロール・グリッドとスクリーンで発振を行わせ、 サプレッサーに高周波電圧を加えるようにした回路で、 発振は容易で安定ですが感度が悪いのが欠点です。

*HP作者コメント
 mT管の5球スーパーの 6BE6 の代わりに、 6AS66BJ6 を差し替えると、この回路に似た状態になります。 感度は劣りますが受信できます。

 第14図は混合管として作られた 6L7G (又は 6L7 ) と発振に 76 を使用したコンバータの回路です。 6A7 が短波に使えず 6W-C5 などが生まれなかった時代に 短波のコンバータとしてよく使われました。 発振は別の真空管で行うのですから安定ですが、感度は 6W-C5 などに比べ少し低いです。

*HP作者コメント
 メタル管の 6L7 は1935年アメリカで発表されました。 ハリクラフターズS-10では79.5MHzまで使用されています。 同等管にG管の 6L7-G があります。
 日本が独自に 6L7-G のUSベースをUtベースに変更した球が Ut-6L7G です。 紛らわしい名前ですがST管です。

 第15図は混合管に 6D6 を使用した回路で、発振電圧はL4より コントロール・グリッドに加えます。 また発振電圧はスクリーン又はサプレッサーに 加えても働きます。

*HP作者コメント
 6C676 の組み合わせもよく見かけます。
 20MHz以下では 6W-C5 のほうが優れているといわれています。

 第16図は5極管と3極管が1個のバルブの中に納められた真空管を使用した例で、 3極管を発振に使用し、共通のカソードからコイルL3の一部の電圧を 5極管のコントロール・グリッドに加えています。

*HP作者コメント
 6F7 は万能管のように数多く使用されましたが、 コンバータ管としての使用例は少ないようです。

 第17図は 6L7G6W-C5 のように使用した回路で、 BCバンドだけなら働きます。


第19図

*HP作者コメント
 第18図、第19図は、電池管の5極管コンバータの回路です。
 第18図はスクリーンとプレートで発振させる回路です。 昔の「無線と実験」の記事から探してきました。 一般の電池管が普及する前の時代に手に入る部品だけで組んだもののようです。 その後にテストした 1R5 のほうがはるかに優秀である、 と設計者自身が認めています。

 第19図もやはり昔の「無線と実験」の記事から探してきました。 やはり手に入る部品だけで組んだもののようです。 フィラメント回路にコイルが入っています。
 電池管の場合、フィラメントの電圧を高く保つことが性能を高く保つことにつながります。 したがって、コイルやRFCが直列抵抗としてフィラメント回路に入ってしまうこれらの回路は、 フィラメント電圧の点で明らかに不利です。


*HP作者コメント
 第20図は、かの有名な「全日本真空管マニュアル」 にも紹介されている回路で、AAC(Automatic Autodyne Converter)回路 と呼ばれています。
 品川電機の前田氏の考案の回路で、 発振電圧の一部をサプレッサーで整流してコントロール・グリッドにAGCとして与え、 周波数の高いほうで発振電圧が強くなり過ぎるのを防いでいます。

 プレート電圧には230V以上、スクリーン電圧180Vが成功の秘訣のようです。
第20図

 3極管コンバータもFMチューナでは実用にされました。 BCバンドでももちろん可能で、私のこのHPの「単球スーパー」、 「単球2バンド・レフレックス・スーパー」の製作で、 2種類の3極管コンバータを実験しています。 また「ナス管5球スーパー」で4極管コンバータ、 「3球スーパーで5極管コンバータ」も試しています。
(2005年2月16日加筆)
(2002年8月20日初稿)
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