先人たちの知恵
コイル・パック
コイル・パックとバリコン、ダイヤルの関係について考察してみました。
1945年第二次世界大戦終結後の 1947年アメリカのアトランティック・シティに於いて、
国際電気通信連合全権会議(アトランティック・シティ会議:議長国はアメリカ)が開かれ、
わが国を含む第三地域(アジア・オセアニア)には中波放送周波数帯として戦前の
550-1,500kHz から、新しく 535-1,605kHz が割り当てられました。
(いわゆる条約です。)
当時のわが国はアメリカの占領下にありましたので、1949年にはわが国も国際電気通信連合に加盟し、
1950年6月1日には国内法いわゆる電波三法を施行、
実際の中波放送の周波数帯の拡大は、1951年以降の民間放送への割当てで反映されました。
また、中間周波数については AM は 455kHz を、FM は 10.7MHz を使うように勧告を受け、
JIS 規格(1949年に始まった)で1950年7月28日規格化(JIS C6004)しました。
これにより、わが国のメーカーはそれまで使われていた中間周波数 463kHz を 455kHz に改めました。
EIAJ(日本電子機械工業会 1948年設立:現在の JEITA)
により1951年バリコンの規格が公認され(のちにJIS規格となることを前提にしていた)、
1952年4月1日年から大手メーカーの自主規格である CLD 協会規格がスタートし
(規格の施行に先立って、「無線と実験」誌1952年2月号などにも広告があります)、
ラジオの中波と2バンドのバリコン(C)、コイル(L)、ダイヤル(D)
(3バンド、4バンドはダイヤルだけ)について、
業界主導でラジオ製造の環境が整ったわけです。
当時大手メーカーの自主規格には関東の CLD 協会と5社連合、関西の CVD 協会
がありました。
余談ですが、1952年4月28日サンフランシスコ平和条約が発効し、わが国は主権を回復しました。
これによって GHQ/SCAP の進駐は終わりました。
「無線と実験」1952年5月号より転載
5球スーパー・コイル 5S-L
5S-H
SA と2つの規格のバリコン
A |
0 |
5 |
8.5 |
18 |
32 |
42.1 |
50.7 |
58.3 |
64.7 |
71.5 |
77.5 |
83.5 |
89 |
95 |
100 |
kHz |
(516) |
535 |
550 |
600 |
700 |
800 |
900 |
1,000 |
1,100 |
1,200 |
1,300 |
1,400 |
1,500 |
1,605 |
(1,639) |
CLD 協会規格の中のひとつ、統一規格のバリコンは EIAJ標準1a の可変係数曲線を
採用したバリコンで、アルプスの大型、中型バリコンがこれに当たります。
アルプスの小型バリコン(C613A、C624A、C635Aなど近年のもの)は EIAJ標準2a の
可変係数曲線を持つバリコンで、同じ 430pF バリコンですが
わずかに統一規格のダイヤルとは周波数の中心部がずれています。
上のダイヤルの図は統一規格のもので、資料を基に計算で求めました。
波長目盛りも併記しました。
バリコンの波長直線型は波長直線型に近いという意味です。
アルプス B-33
大型3連バリコン
波長直線型 11-429pF
トリマーなし タイト
統一規格、EIAJ標準1a の規格を満たしています。
バリコンの可変係数は回転指度 100%-3% で規定されていて、3% 以下での容量変化はありません。
バリコンの回転指度はダイヤルの 0-100 分角とは逆向きになります。
(390pF バリコンの統2号規格もありました。)
BCバンドの周波数目盛りはANTコイルの同調周波数の計算値そのものです。
高1ラジオならこれでいいわけですが、スーパーヘテロダインの実際の受信周波数は
局部発振周波数で決定されますので、トラッキングエラーの分だけわずかにずれることになります。
600kHz、1,000kHz、1,400kHz 付近の誤差は、ほぼ0となり実用的にはほぼ問題ないのですが、
実際のバンドの両端は 523kHz から 1,621kHz となります。
なお短波帯では相対的な誤差が非常に小さくなるため、特に問題ありません。
トリオの標準型2バンド・コイルパック
KM-2
KR-2
2B
2B-RF とダイヤル目盛
C |
0 |
5 |
21.9 |
33.5 |
42.5 |
50 |
56.9 |
62.9 |
68.7 |
74.2 |
79.8 |
85 |
90 |
95 |
100 |
MHz |
(5.8) |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
(18.5) |
A |
0 |
5 |
8.5 |
18 |
32 |
42.1 |
50.7 |
58.3 |
64.7 |
71.5 |
77.5 |
83.5 |
89 |
95 |
100 |
kHz |
(516) |
535 |
550 |
600 |
700 |
800 |
900 |
1,000 |
1,100 |
1,200 |
1,300 |
1,400 |
1,500 |
1,605 |
(1,639) |
第二次世界大戦中禁止されていた短波の受信は、1945年9月18日に解除されました。
トリオは1946年創業で、コイルパック KR-2、KR-3、KR-4 は1948年に発売されました。
前述のアトランティック・シティ会議の世界共通の短波周波数のバンド割当ては、
5.95-6.2MHz、9.5-9.775MHz、11.7-11.975MHz、15.1-15.45MHz、17.7-17.9MHz、
21.45-21.75MHz、25.6-26.1MHz の7バンドですから、
短波帯を 6-18MHz とすると低い方から5バンドをカバーできて合理的です。
CLD 協会規格で決められた2バンドの規格は中波帯とこの周波数帯です。
このダイヤル目盛は、トリオのデータ・シートを基に作成しました。
トリオではアメリカの the Radio Manufacturers Association
(1924年設立)のバリコンのクラスBの規格を基にしています。
このバリコンの規格がのちに JIS規格として認められました。
トリオの民放用2バンド・コイルパック
KC-2
KRC-2
2B-B
2B-B RF とダイヤル目盛
B |
0 |
5 |
19.7 |
30.8 |
39.1 |
46.3 |
52.6 |
(58.5) |
64 |
(69) |
74.2 |
(79.5) |
84 |
(88.5) |
95 |
100 |
MHz |
(3.4) |
3.5 |
4.0 |
4.5 |
5 |
5.5 |
6.0 |
6.5 |
7.0 |
7.5 |
8.0 |
8.5 |
9.0 |
9.5 |
10.0 |
(10.3) |
A |
0 |
5 |
8.5 |
18 |
32 |
42.1 |
50.7 |
58.3 |
64.7 |
71.5 |
77.5 |
83.5 |
89 |
95 |
100 |
kHz |
(516) |
535 |
550 |
600 |
700 |
800 |
900 |
1,000 |
1,100 |
1,200 |
1,300 |
1,400 |
1,500 |
1,605 |
(1,639) |
1954年8月、NSB(Nihon Short-wave Broadcasting co,ltd:ラジオたんぱ、現ラジオNIKKEI)が
3.925MHz(JOZ)と6.055MHz(JOZ2)の2波で開局しました。
これに先駆けてトリオからは、これまでの標準型2バンド( Aバンドと Cバンド)を改め、
新たに民放用2バンド( Aバンドと Bバンド)と称したコイルが発売されました。
後に「民放用2バンド規格」として、そのまま公認されました。
ライバル社スターでは当初 3-8MHz というバンドを採用していましたが、
1955年6月に NSB が 9.595MHz(JOZ3)を新たに追加したため、
短波バンドの周波数変更を余儀なくされました。
NSB が 1957年ころ 11MHz 台の新たな放送波の追加を予定していた(結局実現しませんでしたが)
こともあって、12MHz 以下を受信する5球以下の市販ラジオには優遇税制が適用され、
中波帯と 3.9-12MHz の2バンド5球スーパーが一世風靡(いっせいふうび)しました。
しかし税制の影響を受けない自作ラジオ用コイルが追随することはありませんでした。
トリオの3バンド・コイルパック
K-3B
KR-3
KR-3B
3B-RF とダイヤル目盛
D |
0 |
5 |
18.1 |
28.2 |
36.1 |
42.9 |
48.7 |
54 |
59 |
64 |
68.5 |
72.8 |
(77) |
81.3 |
(85.5) |
(89.5) |
95 |
100 |
MHz |
(7.7) |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
23 |
(23.7) |
B |
0 |
5 |
19.7 |
30.8 |
39.1 |
46.3 |
52.6 |
(58.5) |
64 |
(69) |
74.2 |
(79.5) |
84 |
(88.5) |
95 |
100 |
MHz |
(3.4) |
3.5 |
4.0 |
4.5 |
5 |
5.5 |
6.0 |
6.5 |
7.0 |
7.5 |
8.0 |
8.5 |
9.0 |
9.5 |
10.0 |
(10.3) |
As |
0 |
5 |
15 |
29.5 |
40.5 |
48.5 |
56.5 |
63 |
70 |
76 |
82 |
88 |
95 |
100 |
kHz |
(536) |
550 |
600 |
700 |
800 |
900 |
1,000 |
1,100 |
1,200 |
1,300 |
1,400 |
1,500 |
1,600 |
(1,611) |
CLD 協会規格で決められた3バンドです。
周波数変換管 6W-C5 を使うことを想定しているため、
周波数の上限を 23MHz としたのは賢明で感度も悪くありません。
コイルパック発売後の1954年に短波民間放送(NBS 現ラジオ NIKKEI 第1 3.925/6.055/9.595MHz、
第2 3.945/6.115/9.760MHz)が始まったこともあり、使い勝手がよい仕様です。
コイルパックの大型化にともない、BC バンドはストレーを大きめにとった多バンド規格となっていますが、
中波の受信最低周波数は計算上は 536kHz までです。
トリオの4バンド・コイルパック
KR-4 とダイヤル目盛
D |
0 |
5 |
18.1 |
28.2 |
36.1 |
42.9 |
48.7 |
54 |
59 |
64 |
68.5 |
72.8 |
(77) |
81.3 |
(85.5) |
(89.5) |
95 |
100 |
MHz |
(7.7) |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
23 |
(23.7) |
C |
0 |
5 |
19.7 |
30.8 |
39.1 |
46.3 |
52.6 |
(58.5) |
64 |
(69) |
74.2 |
(79.5) |
84 |
(88.5) |
95 |
100 |
MHz |
(3.4) |
3.5 |
4.0 |
4.5 |
5 |
5.5 |
6.0 |
6.5 |
7.0 |
7.5 |
8.0 |
8.5 |
9.0 |
9.5 |
10.0 |
(10.3) |
B |
0 |
5 |
18.6 |
33.4 |
50 |
63.3 |
74.6 |
85.3 |
95 |
100 |
MHz |
(1.4) |
1.5 |
1.7 |
2.0 |
2.5 |
3.0 |
3.5 |
4.0 |
4.4 |
(4.5) |
A |
0 |
5 |
15 |
29.5 |
40.5 |
48.5 |
56.5 |
63 |
70 |
76 |
82 |
88 |
95 |
100 |
kHz |
(536) |
550 |
600 |
700 |
800 |
900 |
1,000 |
1,100 |
1,200 |
1,300 |
1,400 |
1,500 |
1,600 |
(1,611) |
トリオはアマチュア無線とは別に、漁業無線の製品開発にも力を注いでいました。
トロピカルバンドとも呼ばれた 1.5-4.4MHz の漁業無線バンドを加えた4バンドも、
CLD 協会規格で決められた仕様です。
トリオの 6R4S 9R4 9R59 とダイヤル目盛
KM-4
KR-430 / 9R-4SP
D |
0 |
11 |
20.2 |
28 |
33.9 |
39.5 |
44.9 |
48.9 |
52 |
56.3 |
59.3 |
62.4 |
65.6 |
69.1 |
72.7 |
76.3 |
79.3 |
83.5 |
86.3 |
89.7 |
93.3 |
100 |
MHz |
(10.1) |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
19 |
20 |
21 |
22 |
23 |
24 |
25 |
26 |
27 |
28 |
29 |
30 |
(31.1) |
C |
0 |
3 |
8.3 |
18.6 |
26.8 |
39.2 |
48.7 |
57.4 |
64.3 |
71.6 |
78.1 |
84.4 |
90.5 |
94 |
100 |
MHz |
(4.7) |
4.8 |
5.0 |
5.5 |
6.0 |
7.0 |
8.0 |
9.0 |
10.0 |
11.0 |
12.0 |
13.0 |
14.0 |
14.5 |
(15.0) |
B |
0 |
3 |
16.8 |
26.8 |
44.2 |
57.5 |
68.2 |
78.4 |
87.9 |
94 |
100 |
MHz |
(1.58) |
1.6 |
1.8 |
2.0 |
2.5 |
3.0 |
3.5 |
4.0 |
4.5 |
4.8 |
(4.95) |
A |
0 |
5 |
15.2 |
29.8 |
40.3 |
48.9 |
56.8 |
63.1 |
69.8 |
76 |
82 |
87.7 |
94 |
100 |
MHz |
(0.536) |
0.55 |
0.6 |
0.7 |
0.8 |
0.9 |
1.0 |
1.1 |
1.2 |
1.3 |
1.4 |
1.5 |
1.6 |
(1.635) |
トリオの有名な受信機 9R59 のダイヤル目盛を計算で求めてみました。
DバンドはSシリーズコイルの SG とほぼ同じです。
なおダイヤルの作図に当たって最小目盛を0.5度としたため、
細かな目盛に若干不自然なところがあります。
6R4S、9R4 の目盛は 9R59 とは若干異なります。
調整次第でどちらに合わせることも可能です。
(写真左 コイルパック
KR-430 に付属の目盛)
トリオの 9R42 とダイヤル目盛
KM-42C
KR-42C
B / C / D |
0 |
2.5 |
19 |
31.5 |
42 |
50.5 |
59.5 |
68.5 |
78.5 |
90 |
100 |
MHz |
(13.8) |
14 |
16 |
18 |
20 |
22 |
24 |
26 |
28 |
30 |
(31.0) |
MHz |
(6.9) |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
(15.5) |
MHz |
(3.4) |
3.5 |
4 |
4.5 |
5 |
5.5 |
6 |
6.5 |
7 |
7.5 |
(7.7) |
A |
0 |
5 |
15 |
29.5 |
40.5 |
48.5 |
56.5 |
63 |
70 |
76 |
82 |
88 |
95 |
100 |
MHz |
(0.536) |
0.55 |
0.6 |
0.7 |
0.8 |
0.9 |
1.0 |
1.1 |
1.2 |
1.3 |
1.4 |
1.5 |
1.6 |
(1.611) |
9R42 の"2"はアマチュア無線用という意味で、アルプス B-93 という2セクション・バリコン
(180pF+250pFの3連スプレダー付*)を採用し、短波帯の3バンドは 180pF バリコンで
カバー範囲を狭く設定するとともに、各バンドを倍数関係にして扱いやすくしてあります。
さらに、1.5-4.4MHz バンドを加えたコイルパック
KR-5 も発売されました。
*スプレダー(spreader = バターナイフ状のスプレッドバリコン)
(2015年4月9日トリオの民放用2バンド・コイルパック追加)
(2014年6月5日一部訂正)
(2008年2月6日 CLD 協会規格追加)
(2005年12月15日加筆)
(2005年10月2日加筆)
(2005年8月30日加筆)
(2005年8月9日初稿)
Reset