先人たちの知恵
再生の利用
図1 中波の再生検波
真空管ラジオではおなじみの再生検波は、簡単な仕掛けで高感度なラジオが作れるため、
昭和初期のわが国のラジオには多用されました。
1947年10月占領軍は、民間の再生受信機の漏れ電波による通信障害に
困り果て、ラジオ製造会社での再生受信機の生産禁止を指示しました。
しかし自作や販売にまでは関与していません。
再生をかけることにより、コイルのQが高まり、選択度、感度が飛躍的に向上するような
イメージがありますが、実際にはスーパーヘテロダインに遠く及びません。
強力なローカル局の影響を受けると、バリコンをどこに回しても混信し、
遠距離局の受信は大変困難です。
図1のこの回路は、グリッド検波に再生をかけており、
スクリーン電圧が25V前後で感度が最大となります。
感度はいいのですが電波の強いローカル局の受信でも出力電圧は7V程度で、
6Z-P1程度をドライブするのがやっとです。
プレート検波にも再生をかけることができます。
グリッド検波が強い信号を受けるとプレート電流が減少し再生作用が抑圧されるのに対し、
プレート検波は強い信号を受けるとプレート電流が増加し再生作用がさらに増長され発振状態になり易く、
滑らかに再生作用をコントロールするのが難しいためあまり利用されません。
(並三)
図2 短波の再生検波
図1の回路を短波で使用すると、再生作用の調節で受信周波数がずれてしまう欠点があります。
そこで図2の同調コイルにカソード・タップを出す方式が推奨されています。
アメリカの製作記事ではどれも、同調バリコンに100pF程度のものを使用し、
バンド幅を狭くして再生作用が一様にかかるように設定しており、
これが成功の秘訣のようです。
感度の向上を狙ってグリッド・リーク抵抗を4.7MΩなどと大きな値にしても、
実際にはひずみが増えるだけでメリットがありません。
1MΩ以下とするほうがいいようです。
RCAの真空管ハンドブックの回路にも検波管に 6SK7 が使用されているように、
リモート・カットオフの5極管を使用したほうが再生の調節が滑らかになります。
あえて3極管を使用する場合はCp-gの小さな球が向いています。
いずれの場合も、短波の受信でスピーカーを鳴らすためには2段の低周波増幅が必要です。
感度向上のために、プレート負荷に100Hのチョークを使用して、
プレート電圧を上げ、検波管のgmを高めています。
しかし、そのために電源トランスの漏れ磁束を拾いやすくなります。
さらに検波管のカソードが高周波的に浮いていることとあいまって、
ハムの影響を受けやすくなります。
再生検波やこの回路を発振させたオートダイン検波では、
アマチュア無線のような混信の激しい電波の受信は非常に困難です。
この回路にはありませんが、チョークと並列に250kΩ程度の抵抗を入れることがあります。
これは、再生がかかり始めるとキューという音が出るフリンジ・ハウリング(=Fringe Howling)
を防止するためのもので、ハウリングが止まる最大値にします。
フリンジ・ハウリングはFETや3極管を使った場合に起こりやすいのですが、
5極管でも起こる場合があります。
組み合わせるチョークの影響が大きいようです。
図3 スーパーと再生検波/ショート・スーパー改造キット
第二次世界大戦後民間の放送局が続々と開局し、高1ラジオでは混信から
逃れられないことから、高1ラジオを4球ショート・スーパー
(高一再生式の高周波増幅を周波数変換に変えただけ)
に改造するキットが発売されました。当然、検波回路はコイルが
455kHzのものに代わっただけです。
この回路図はトリオの
K-4型4球スーパー用コイルキット
(左の写真)使用例の回路で、キットの内容は
再生付IFT(シールドケースはなくシャシ内部に収める)、小型アンテナコイル、
小型発振コイルです。
左の写真はスターの4球スーパー コイル・キット。
再生付IFT(グリッド・リーク抵抗、グリッド・コンデンサ内臓)、
アンテナ・コイル、発振コイル、パディング・コンデンサのセットです。
左の写真はナショナルのスーパーコンバーター NO.1765-K-1。
再生付IFT、アンテナ・コイル、発振コイル、パディング・コンデンサのセットです。
図4 スーパーと再生検波/グリッド検波
1958年度版ARRLラジオ・アマチュア・ハンドブックに掲載された回路。
6U8の周波数変換の後、6BD6でグリッド検波をしています。
スクリーンから同調コイルに再生をかけています。
IFTにタップを出す代わりにコンデンサで分割しているところは見事。
検波管の負荷抵抗が47kΩと低く、図1、図3の250kΩとは大きく異なるのが面白いところ。
私は小学生のころから、スーパー+再生検波とすれば簡単で最高感度の受信機が作れると
信じていました。
そのため、大人になってからそんな構成の短波ラジオを3台も作ってみたのですが。
(現存する1台)
5球スーパー+オートダイン検波でCWやSSBを聞くことは不可能ではないのですが、
聞きたい弱い信号のすぐそばに強い信号があると、強い信号に圧倒されてビートがかかりません。
かといってIF増幅管のゲインを絞れば弱い信号は聞こえなくなってしまうのです。
結局、RF増幅を付けたり、BFOを付けたりするほうがはるかに高性能な受信機となります。
再生は信号レベルの低いところでないと特長が生かせません。
図5 再生付プリセレクター
複合管6AN8を使った再生付プリセレクターで、
これも1958年度版ARRLラジオ・アマチュア・ハンドブックに掲載された回路です。
高gmの5極部で高周波増幅をし、3極部はカソード・フォロアーとしています。
再生回路というよりは、送信機の終段の中和回路に似ていて、
100pFのVCで再生を調節し、2.5kΩのVRでゲインを調節します。
このころのアマチュア向けの回路は、高1中2受信機のIFにも再生をかけているくらいですから、
RF増幅に再生をかけて選択度を高めるなどということも特別なことではありません。
しかしながら、再生をかける以前に5極部のプレート側にも同調回路を
設けたほうがよさそうです。
図6 再生付コンバーター
局部発振を別の球にしたBFO付短波専用スーパーのコンバーターに再生をかけた
回路が1943年度版ARRLラジオ・アマチュア・ハンドブックに掲載されています。
基本は5球スーパーですから、イメージ混信には効果があったかもしれませんが、
再生をかけるとS/Nが悪化しますので、、、うーん、どうでしょう。
図7 再生付IF増幅(1)
デリカ(三田無線)DX-CS7 は、5球スーパー+BFOというシンプルな構成ながら
質の高いコイル類などの採用により、高性能であったと言われています。
外観、構成ともにハリクラフターズS-38の日本版といったところでしょうか。
DX-CS7の特徴はIF増幅管に高gmのテレビ球6BZ6を使用して
ゲインを稼ぎ、IFT Bにスクリーンから再生をかけて選択度の向上を図っていることです。
6BZ6の内部抵抗が低いことと、Cp-gが比較的大きく発振しやすいことから
IFTはタップ・ダウンして使用されています。
余談ですが6BA6と挿替えができ、6BZ6に匹敵するgmを持つラジオ球に
6HR6があります。
図8 再生付IF増幅(2)
スターSR-40という4バンド・トランスレス4球スーパーのIF増幅回路です。
ヒース・キットのGR-91とSメーターを除いて回路がそっくりです。
Sメーター回路はGR-91が逆ぶれ方式、SR-40は普通の方向に1mAメーターの針が振れる方式を
採用していて、真空管が暖まるまでの間Sメーターの針は逆方向に強く張り付いたままになります。
IF増幅管のサプレッサー・グリッドは本来接地するところですが、接続をはずすと
発振してしまうことを逆手(さかて)にとって1kΩのVRで再生から発振までの状態を
コントロールしています。
同時にAGC電圧は5kΩの抵抗を通じて接地しています。
発振させてBFOとして使用するのが本来の目的で、再生状態にしても特に利点はありません。
安価な割に高感度で簡易型受信機向きですが、SSB の復調には慣れが必要です。
この回路はIF増幅管のgmがある程度高く、加えてIFTのQが高くないと
うまくいきません。
gmが低い球の場合には、IF増幅管のコントロール・グリッドとプレートの配線を
浮遊容量で結合させて、BFOとすることもよく見かけます。
しかし多くの場合、IFTの中心周波数と発振周波数は微妙にずれます。
都合の悪いほうにずれるとSSBの受信が難しいときがあります。
このSR-40と弟分のSR-100はIFTの中心周波数と発振周波数が完全に一致します。
拍手。
図9 再生付IF増幅(3)/ポジ・ネガ再生
出典はアメリカIRE 1940年5月号ということで、無線と実験に紹介されていた記事の
孫引きです。
IFTのプレート側コイルに再生コイルとして1回または2回捲きます。
これがポジティブ再生。
カソードにはバイパスしない抵抗500Ω(1回捲き)または1kΩ(2回捲き)を入れてネガティブ再生。
略してポジ・ネガ再生といいます。
ネガ再生を行うことにより電源電圧の変化による影響を少なくでき、
利得の増加は望めないが、IFTを3個使った回路(IF2段増幅)より特性がシャープになる
ということなのですが。
図10 BFO付AF増幅
ヒース・キットAR-3の検波増幅管とBFOを兼ねた回路で、
発振電圧が低いためゲインの低い5球スーパー向きです。
回路は複雑ですが大きな問題はなく、意外と実用になります。
発振周波数を可変とすることもできます。
(この回路を試作しました。
1、2)
ヒース・キットの簡易型BFOは、この後図8のようなIF増幅管兼用BFOに移行します。
低周波増幅管を使って2極管検波に再生をかける回路もあるのですが、
部品の制約が多く再現性に問題があるようです。
古い書物をひもとくと、面白いアイディアがたくさんあります。
中でも製品化された、あるいは権威ある書物に発表されたこれらの回路を考案し、
実践した先人の業績に尊敬の念をこめて、
掲載させていただきました。
(2005年2月16日一部別項目へ移動)
(2003年12月16日初稿)
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