4球1ウェイ
4球2バンド・ポータブル
(自作)


写真左-前から、右-後ろから
電池管は左から3Y4、1AH5、1T4、1L6

 わが国では1954年に民間の短波放送が始まり、中波放送局に先駆け翌年から ナイター(野球)中継を始めたことが人気を呼び、 中波帯と短波帯の2バンド受信を可能にしたラジオの人気につながりました。 折りしもトランジスター・ラジオの登場をうけて 窮地に立たされていた電池管ポータブルですが、 トップメーカーは2バンド、3バンド・ポータブルを登場させ、 有終の美を飾ったのでした。

 今回は短波放送ではなく、もう一段飛躍して7MHzのアマチュア無線と 中波放送を聴くことのできるポータブルを作ってみました。 4球ポータブルはBCバンドを受信するだけでしたら 十分な性能を持っていますが、7MHzのアマチュア無線を 受信するためには、感度、選択度が不足するだけでなく、 CWやSSBを受信するためのBFOが必要となります。 そこで以前2バンド5球スーパー で試したように、 IF段に軽く再生をかけて発振させ、感度、選択度を飛躍的に向上させるとともに BFOも兼用してしまうという方法を採用しました。


IF段の再生/BFO
 方法はいたって簡単です。 10cmくらいの細いビニル線を用意し、 一方の端をIF増幅管1T4のグリッドの配線に軽く1回巻きつけ、 その延長をプレートの配線に2回巻きつけ、 もう一方の端をスイッチ経由で接地すれば通常の増幅、 開放とすれば再生/BFOとなります。 配線のストレーを利用してフィードバックをかける一番単純な方法ですが、 再現性は悪く定量的な調節は困難です。

 電源電圧の変動とともに再生の状態も敏感に変化してしまうのが、 電池管ラジオに再生をかけたときの最大の問題点です。

コイルとバリコン
写真上から
パイオニアのチューナ用バーアンテナ(250-325μH)
短波用バーアンテナ(約12μH)
バーアンテナのホルダー
No.88コイル(100-215μH リアクションコイルとして0.1mmポリウレタン線60回巻を追加。 元のリアクションコイルは使用しない。) とFCZ10S3R5(6.6-10μH)
AM/FM用バリコン 減速機構付 約8:1 (アルプス製、7-22pF、8-186pF、7-96pF、7-22pF、トリマ各約10pF)

写真にはありませんが、バンド切換スイッチは4回路2接点の小型スライド スイッチでミツミ製です。

7MHzバンドのトラッキング
 トラッキングが取れた状態で、発振周波数の範囲、トラッキング周波数(2点)、 バリコンの仕様がわかれば、あとは計算で推定することが可能です。 (計算結果に、どれだけ信憑性があるかどうかは謎です。)

 発振周波数7,339-8,993kHz、トラッキング周波数7,070kHzと8,200kHz、 2連バリコン7-22pF 以上からアンテナコイル12.47uH、発振コイル10.47uH、 トラッキングエラーは左のグラフのようになります。 周波数の変化範囲を狭く取っていることもあり、トラッキングエラーは最大でも 6kHz以下と中波帯並みに収まりました。

 谷型のグラフはパディング・コンデンサ(PC)を使用しないときの典型的な形で、 0.0015uFのPCを使用すれば波型のカーブのグラフも可能です。 ただしこの状態で、今回の受信範囲7,000-7,100kHzのハムバンド内の トラッキングエラーは±1kHz以内に収まりますから何の問題もありません。

ダイヤル
 バリコンは8:1の減速機構付で、 先を輪にした太いスズメッキ線をバリコンに直結して、 同調周波数を表示しています。

 ジャイロアンテナ風の360度回転BCバンド・バーアンテナを試してみました。 特に追加した部品はなく、取付け位置を変えてみただけです。 単純ですが、指向性の強さを実感しました。

4球2バンド・ポータブル定格表
型式4球スーパーへテロダイン
受信周波数BCバンド 625kHz-1,568kHz(実測)
40mバンド 6,884kHz-8,538kHz(実測)
中間周波数455kHz
使用真空管1L6、1T4、1AH5、3Y4
感度4球ポータブル程度
電気的出力150mW(推定)
電源乾電池 A 1.5V(単1型アルカリ電池 x1)
B 72V(006P積層マンガン電池 x8)
消費電力A 1.5V-175mA B 72V-8.4mA
スピーカー7cm ダイナミック
形状185 x 165 x 75mm
重量0.69kg (電池なし)、1.09kg (電池付)
製作年月2005年6月


4球2バンド・ポータブルの回路図


調整
 今回7MHz帯受信を考慮して、周波数変換管には1L6を使ってみました。 お互いにピン接続も仕様も異なるのですが、 1L6の代わりに1R51AC6 を差し替えても使えるのはZenithファンなら有名な話です。 試してみましたが、その話は本当でした。 1R5に差し替えるとスクリーン電圧が接地されてしまうのですよ! 私の少ない経験から言えば、短波帯では1AC6を使用する回路が一番高性能でしょう。

 IF増幅管は軽く発振させながらも増幅させます。 軽く発振させるといっても、G1に負電圧が数ボルト発生しますので、 カットオフ電圧の深いリモート・カットオフの1T4が 増幅率が下がらず使いやすいようです。 BFOの信号が強すぎるとスピーカーから出てくる音声が小さくなります。 BFOが止まってしまっては論外ですが、弱めの発振を維持できれば かなり大きな音声を取り出すことができます。 そこで、IF増幅管のグリッドに巻いた再生用のビニル線の巻き具合を 指で微妙に調節してやる必要があります。

 B電池電圧の増減は音声出力の増減として現れますが、 A電池電圧の増減は真空管のgmの増減として現れ、 再生の具合に大きな影響力を持ちます。 そのため、数時間ごとに再生用のビニル線を調節してやる必要があります。

 検波・増幅、出力管には、消費電流の少ない1AH53Y4 を使ってみました。 高周波回路用の25mA管1U61AB6などはA電池の電圧が 低下したときの性能の低下が顕著で、 短波で使うにはちょっと心もとない印象を受けました。 また1T4-SF1T4と比べて明らかに能力が劣ります。

試聴
 トランジスタ・ラジオ用のバリコンを使いましたので、 残念ながらBCバンド全域はカバーしません。 しかし、4球ポータブルとしては音質、感度は文句のないレベルです。

 ふたを開けてスライド・スイッチを右にずらせば、 サーッというノイズが聞こえてきて7MHz帯の受信となります。 ボリュームを多めにまわし、同調ツマミを注意深く動かせば、 なにやら素っ頓狂(すっとんきょう)な調子の人間の声が聞こえてきます。 さらにゆっくり同調ツマミを動かせば、あら不思議、 普通の音程の声に変わります。 これがSSBの受信ですね。
 内蔵のバーアンテナだけで指向性もなく混信も少なく、 歪みの少ない大きな声でアマチュア局の交信が聞こえます。 アイテックSR−7をちょっと静かにしたような感じです。 数分間というスパンで見れば周波数はほとんど動きませんし、 ボディ・エフェクトもありません。 ヘッドフォンも使えます。 お遊び用としては十分でしょう。
(2005年6月8日初稿)
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